ノロウイルスの医療への負荷
現在、ノロウイルスはすべての年齢層における急性胃腸炎の主要な原因となっている。過去5年間に、米国でのノロウイルスによる負荷の状況が明らかになってきた。様々な方法を用いて行われた研究結果や文献を総合することによって、次のような結論を得ることができた。
毎年、米国ではノロウイルス疾患に1,900~2,100万人が罹患し、一般外来および救急外来にそれぞれ170~190万人および40万人が受診する。そして、入院が必要となるのは5.6~7.1万人であり、570~800人が死亡している[図1]。
このような割合と米国の平均余命79歳を元にして計算すると、米国人はノロウイルス疾患を生涯に5回経験し、2人に1人が一般外来を受診する。救急外来には9人に1人が受診し、0~70人に1人が入院することになる。そして、5,000~7,000人に1人がノロウイルスによって死亡している[図1]。
年齢別の解析によると65歳を超える高齢者がノロウイルス関連死亡の危険性が最も高く、5歳未満の小児がノロウイルス関連の受診や入院が最も多かった[図2]。更に、冬期およびパンデミック株が発生したときに死亡、入院、外来受診が増加することも観察された[図3]。
米国と他の先進国とのノロウイルス疾患の状況の比較
米国のノロウイルスの状況を他の先進国のデータと比較すると、大まかに一致している。オランダの最近のデータは2件の最近の米国でのデータよりもノロウイルス関連死亡率がやや高いが(0.4死亡/10,000人vs.0.027および0.019死亡/10,000人)、入院の割合が低い(1.2vs.2.4および1.9入院/10,000人)。英国の2件の研究での外来患者の割合(21および54外来受診/10,000人)およびドイツの研究の割合(63外来受診/10,000人)は最近の2件の米国での割合(57および64外来受診/10,000人)と一致している。
英国での2件の大規模な研究に基づいて得られた市中でのノロウイルス疾患の発生頻度の推定値(470および450疾患/10,000人)およびオランダでの1件の研究結果(380疾患/10,000人)は最近の2件の米国での推定値(650および700疾患/10,000人)よりも低い。逆に、カナダでの最近の推定値(1,040疾患/10,000人)は米国よりも高い。
医療管理および支払いのシステムが国々で異なっていることが受診や費用に関する直接的な比較を困難にしているが、ノロウイルス疾患の相当な負荷は米国特有のものではないことが明らかとなった。
おわりに
ノロウイルス疾患は日本においても冬期に問題となっている。そして、その全体像はおそらく米国の状況に近いものであろうことは容易に推測できる。ただし、日本での健康保険システムが受診や入院を容易なものにしているため、外来受診や入院の割合は米国でのデータよりも高いものであろうと思われる。しかし、高齢者に死亡が多く、幼児に外来受診が多い傾向や冬期にノロウイルス疾患が増加する傾向には変わりはないであろう。また、パンデミック株が発生した年での死亡、入院、外来受診が増加することについても同様であろうと推測される。
文献
- Hall AJ , et al. Norovirus disease in the United States.
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/19/8/pdfs/13-0465.pdf
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長