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20号 風疹および先天性風疹症候群
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日本中で風疹が流行しており、妊婦への感染により先天性風疹症候群の出産が報告されている。そのため、行政も風疹ワクチンの助成制度を開始しており、多くの方々が接種するものと思われる。風疹ワクチンは妊婦には接種できないが、妊娠を予定している女性もしくは、妊婦の同居家族への接種が推奨される。ここで心配なことが2つある。一つ目は、妊婦が「ワクチンを接種したから大丈夫」「子どものころ風疹に罹患し、血液検査にて風疹の抗体が確認されたから大丈夫」というように、風疹には100%感染しないと思いこみ、風疹患者に無防備に曝露することである。これは是非とも避けたいことである。もう一つは、先天性風疹症候群の発生数についての報道である。これは出産時もしくは出産後に認識された数である。しかし、軽度の先天性風疹症候群は出産後何カ月も何年も経過してから判明することがある。すなわち、現時点では本当の数は不明であり、何年もあとになって真の数が判るのである。ここでCDCが公開した「麻疹、風疹、先天性風疹症候群、ムンプスの予防,2013年」から先天性風疹症候群の部分を紹介する1)

風疹の合併症

風疹は鼻咽頭分泌物への直接接触や飛沫曝露によって伝播する疾患である。この感染症の特徴は発疹、微熱、リンパ節腫大、倦怠感である。症状が軽度であることはよくみられることであり、風疹ウイルスに感染した人の約50%で症状が現れない。しかし、風疹に感染した成人のなかで、一過性の関節痛や関節炎がみられることはよくあることであり、特に女性に多い。頻度は少なくなるが、他の合併症がみられることがある。例えば、血小板減少による紫斑は3,000件の風疹患者のなかで約1件程度の頻度でみられる。これは小児に多い傾向がある。脳炎については6,000件のなかの1件の頻度であり、これは成人に多い傾向がある。

先天性風疹症候群

妊婦での風疹(特に第1トリメスタ―)では流産、死産、先天性風疹症候群(白内障、難聴、精神遅滞、先天性心臓欠損を含む出産時の障害)が発生しうる。これに加えて、先天性風疹症候群の幼児には子宮内および出産後の成長遅延がみられることが多い。先天性風疹症候群によって中等度または重度の影響を受けた幼児は出産時に容易に気づかれる。しかし、軽度の先天性風疹症候群(軽度の心臓障害や難聴など)であれば出産後何カ月も何年も気づかれず、もしくは全く気づかれないことさえある。

先天性感染および障害の頻度は妊娠の最初の12週間が最も高く、妊娠12週を越えると低下してゆく。妊娠20週以降に感染した場合の障害は稀である。母体が無症状の風疹感染した場合もまた先天性障害を引き起こす可能性がある。先天性風疹症候群の臨床症状のない胎児感染は妊娠のどの時点でも発生しうる。

風疹免疫と先天性風疹症候群

風疹の再感染は発生しうる。それは野生型風疹感染の後でも風疹ワクチンを1回接種したあとでも報告されている。妊娠中の母体に無症状の再感染があったとしても、胎児への危険性は少ない。しかし、妊娠前に風疹免疫の血清学的エビデンスが確認されている女性が妊娠の最初の12週間で再感染したところ、胎児感染および先天性風疹症候群がみられたという報告はいくつかある。但し、妊娠12週以降での再感染での先天性風疹症候群の報告はない。

おわりに

冒頭で述べたように、風疹ワクチンの助成制度によってワクチン接種が加速されることは歓迎すべきことである。そして、妊娠前に風疹抗体を獲得することも大変重要なことである。しかし、「ワクチンを接種した」「風疹抗体価が獲得されていた」という理由で風疹免疫が完璧であると妊婦が思い込まないように啓発する必要はある。やはり、風疹患者には近づかないようにしていただきたいし、どうしても近づかなければならない場合には「飛沫予防策+標準予防策」を遵守し、手洗いとサージカルマスクの装着をしなくてはならない。また、出産時に何ら障害がみられなくても、その後何カ月もして障害があることが判明することがあるので、出産後の症状観察は必要である。

文献

  1. CDC. Prevention of measles, rubella, congenital rubella syndrome, and mumps, 2013.
    http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/rr/rr6204.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長