臨床症状
42歳の農場の男性が発熱(39.2~39.7℃)、倦怠感、結膜鬱血、下痢、腹痛、白血球減少、血小板減少、蛋白尿、血尿を呈してSFTSを発症したが、これを発端として、血小板減少を伴った高熱の患者が数多く入院していたことが判明した。これらの人々のなかで、SFTSVが検査で確認され、かつ、臨床症状が診療録から確認できた81人が解析された。臨床症状は非特異的であり、主な症状は発熱と胃腸障害であった。局所的なリンパ節腫脹もみられた [表]1)。
症状 | 症状のある患者(n = 81) | 死亡症例(n = 11) |
---|---|---|
発熱 | 81(100%) | 11(100%) |
食欲不振 | 61(75%) | 7(64%) |
倦怠感 | 53(65%) | 6(55%) |
吐き気 | 56(69%) | 5(45%) |
腹痛または腹部圧痛 | 40(49%) | 4(36%) |
嘔吐 | 38(47%) | 4(36%) |
不快感 | 32(46%) | 7(64%) |
下痢 | 34(42%) | 3(27%) |
リンパ節腫脹※2 | 23(33%) | 2(18%) |
筋肉痛 | 22(27%) | 2(18%) |
混乱 | 18(22%) | 4(36%) |
頭痛 | 10(12%) | NA※3 |
咽頭鬱血 | 10(12%) | 2(18%) |
咳嗽 | 8(10%) | 2(18%) |
結膜鬱血 | 8(10%) | NA※3 |
点状出血 | 5(7%) | 3(27%) |
無気力 | 6(9%) | 1(9%) |
不明瞭言語 | 4(6%) | 1(9%) |
昏睡 | 4(6%) | 3(27%) |
※1. SFTSVが検査にて確認され、かつ、完全な診療録のある81人の患者において症状が評価された。
※2. この症状は81人の患者のなかの69 人にて評価された。
※3. NA=入手できず(not available)
検査値の異常で最も頻繁に観察されるのは血小板減少(95%)および白血球減少(86%)であった。多くの症例において多臓器不全が急速に進行し、ALT、AST、CPK、LDHの上昇がみられた。84%の症例が蛋白尿を呈し、59%の症例で血尿がみられた1)。SFTSVの確定症例171人のなかで21人(12%)が死亡している1)。
鑑別診断
SFTSは「ヒト顆粒アナプラズマ症」「腎症候性出血熱」「レプトスピラ症」との鑑別が必要である1)。ヒト顆粒アナプラズマ症(マダニにより媒介されるアナプラズマ・ファゴサイトフィルムによる感染症)の患者では発熱、白血球および血小板の減少がみられる。この点ではSFTSの患者に似ているが、ヒト顆粒アナプラズマ症では胃腸症状は多くない1)。腎症候性出血熱(ネズミを介するハンタウイルスの感染による出血性腎疾患)の患者は、最初の発熱期ではSFTSの症状に似た胃腸症状や腹痛がみられる。しかし、顔面や首および胸郭の紅潮、結膜の紅潮、眼窩周辺の浮腫、低血圧、乏尿、多尿、出血傾向はSFTSの患者では観察されない1)。レプトスピラ症(病原性レプトスピラによる人獣共通感染症)では初期の発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛がみられるので、SFTSと間違えられるかもしれない。しかし、発疹および黄疸といったレプトスピラ症で一般的にみられる症状はSFTSの患者では稀である1)。
ダニとSFTSV
SFTSVRNAがフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)にて検出されているので、これがSFTSVの運び屋かもしれない1)。殆どの哺乳類(ヤギ、ウシ、ヒツジ、ヤク、ロバ、ブタ、シカ、ネコ、ラット、ネズミ、ハリネズミ、イタチ、フクロギツネ、ヒトなど)がこのダニの宿主となっているが、トリも宿主となっている。フタトゲチマダニはアジア-太平洋地域に広く分布している(中国、韓国、日本、オーストラリア、太平洋諸島、ニュージーランドが含まれる)1)。山東省のSFTSの流行地域(多くの農場ではヤギを飼っている)での調査では、134頭のヤギのうち111頭(83%)、ヒト237人中2人(0.8%)がSFTSV陽性であった2)。江蘇省の家畜ではヤギ57%、ウシ32%、イヌ6%、ブタ5%、ニワトリ1%が陽性であった3)。
ヒト-ヒト感染
SFTSVがヒトからヒトに伝播したという報告がある。2006年9月~11月に中国安徽省で発生した2件の集団感染において14人の患者が発症し、13人の血清が調査された(1人は血清が足りなかった)。1件の集団感染では発端患者および2次感染者9人の10人が、もう1件の集団感染では発端患者および2次感染者3人の4人がSFTSを発症した4)。これら14人が発熱、血小板減少、白血球減少などの典型的な臨床症状を呈している。2次感染のすべての症例は発端患者の血液に接触または曝露してから6~13日後にSFTSを発症した。誰も発端患者には接触しなかったが、血液に曝露していたので、血液曝露によってヒトからヒトに伝播する可能性が示唆された4)。
ヒト-ヒト伝播を示唆する別の報告がある5)。2007年4月27日、中国東部において80歳女性が発熱、白血球減少、血小板減少にて死亡した。その家族6人もまた地域の病院に同様の症状(発熱など)にて入院となった。当時は原因は不明であったが、2009年12月にSFTSVが同定されたため、再調査がおこなわれた。その結果、2007年に採取された6人の患者の血清がSFTSV陽性となった。2次感染の症例において共通する特徴は発端患者への個人接触であった。誰も動物やベクターには曝露していなかったので、ヒトの接触にて伝播することが示唆された5)。
文献
- Xue-Jie Yu, et al. Fever with thrombocytopenia associated with a no vel bunyavirus in China. N Engl J Med 2011 ;
364 : 1523-32 - Zhao L, et al. Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus, Shandong Province, China.
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/6/pdfs/11-1345.pdf - Zhang WS, et al. Seroepidemiology of severe fever with thrombocytopeia syndrome bunyavirus in Jiansu Province.
Dis Surveill. 2011 ; 26 : 676 ‒ 8. - Liu Y, et al. Person-to-person transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome virus. Vector Borne Zoonotic Dis. 2012 ; 12 : 156‒ 60
- Bao CJ, et al. A family cluster of infections by a newly recognized bunyavirus in eastern China, 2007 : further evid ence of person-to-person transmission. Clin Infect Dis. 2011 ; 53 : 1208 ‒14
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長