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13号 汚物処理室
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医療廃棄物は適切に管理されなければならない。そして、汚物処理室は医療廃棄物が一時的に保管されており、また、汚物を処理する区域でもある。そのため、病院機能評価も重点的に評価している。ここでは医療廃棄物についての考え方と汚物処理室が必要とする要件について、CDC ( Centers for Disease Control and Prevention : 米国疾病管理予防センター )、WHO ( World Health Organization : 世界保健機構 ) 、EPA ( Environmental Protection Agency: 米国環境保護庁)のガイドラインを参考にして解説する。

医療廃棄物

一般に、医療施設で発生する医療廃棄物は一般家庭の廃棄物よりも危険であると思われていることが多い。しかし、CDCは「医療施設における環境感染制御のためのガイドライン」1)において、「医療施設の固形または液状廃棄物が家庭廃棄物よりも感染性があるとする疫学的なエビデンスはない」としている。実際、いくつかの研究によって、家庭廃棄物と医療廃棄物の微生物の量およびその種類が比較された。その結果、医療廃棄物は家庭廃棄物と比較して細菌の種類が多いものの、家庭廃棄物の方が汚染度が高いことが示された。

また、医療施設において伝統的に行われている医療廃棄物の取り扱いによって、医療環境および市中環境にて病気が引き起こされたという疫学的エビデンスはない1)。但し、それには例外があり、患者をケアしている途中または直後で(廃棄する前の)鋭利物による損傷が病気を引き起こす可能性はある。従って、取扱いおよび廃棄について何らかの予防策(不貫通性容器など)が必要な廃棄物を同定することが重要である。すなわち、病因微生物の量と種類に基づいて医療廃棄物を正確に分類することは不可能なので、「取扱いおよび廃棄のときに感染を引き起こす危険性の高い廃棄物」や「特別な予防策が必要な廃棄物」を同定して対応することが重要となる1)

具体的には、医療廃棄物は漏れのない頑丈なバイオハザード袋に封入すればよい。もし、袋の外部が廃棄物で汚染した場合や袋に穴が開いてしまった場合には2つ目のバイオハザード袋に入れる1)。当然のことながら、すべての袋は廃棄のためにしっかりと閉じていなければならない。そして、鋭利物(メス、針、シリンジなど)はシャープコンテナー(不貫通性容器)に封入しておかなければならない1)

医療廃棄物の保管

医療廃棄物が発生したら、できるだけ迅速に処理するのが望ましい。しかし、当日に処理することが常に可能であることはなく、それは実践的でもない1)。例えば、処理装置が容量不十分であったり、機能しなかったり、また、人手不足で対応できないこともある。この場合、廃棄物を保管することになるが、EPAは「感染性廃棄物の管理のためのガイド」2)において、廃棄物を保管するときに考慮すべき4つの重要な要因を提示している。それらは「容器の完全性」「保管温度」「保管期間」「保管区域の場所およびデザイン」である。特に、保管温度と期間について考慮することは重要である。温度が上がれば、微生物の増殖速度や腐敗速度が増加する。その結果、腐敗有機物を含んだ廃棄物による不快な悪臭が発生する。従って、医療施設は廃棄物が蓄積しないように定期的に廃棄しなければならない。また、保管するときには、医療廃棄物はラベルが貼付された、漏れのない、穿刺に強い容器の中で、悪臭を防ぐ状況で保管する必要がある。そして、保管区域は換気をよくして、有害な小動物や昆虫がアクセスできないようにする1)

WHOは「医療廃棄物からの医療廃棄物の安全な管理」3)において、保管区域は下記の条件を満たすことを提示している。

  • 保管区域は不浸透性で排水性のよい硬い床であるべきで、清掃および消毒が容易でなければならない。
  • 清掃のために給水設備を設置する。
  • 保管区域には廃棄物の取り扱い担当のスタッフが容易にアクセスできなければならない。
  • 関係者以外が入り込まないように、貯蔵庫は鍵をかけるようにする。
  • 廃棄物の収集車が容易にアクセスできるようにする。
  • 日光を避けるようにする。
  • 保管区域には動物、昆虫、鳥が寄り付けないようにする。
  • 採光がよく、少なくともパッシブ換気ができなければならない(註釈)。
  • 保管区域を新鮮な食物保存や食物処理の区域の近くに設置してはならない。
  • 清掃機具、防護具、廃棄物袋や容器の補給元は保管区域の近くに位置して便利でなければならない。

医療廃棄物の保管期間については、冷蔵保管室がなければ、保管時間(医療廃棄物が発生してから処理されるまでの時間)は温帯気候の国では「冬季は72時間、夏季は48時間」、もっと温暖気候の国では「涼しい季節は48時間、暑い季節は24時間」としている3)

下水

汚物処理室には患者の血液や体液(胸水や腹水など)が持ち込まれることがある。このような液体の処理法として下水への廃棄がある。この場合、血液や体液には何らかの病原体が含まれている可能性があるので、それらを下水に流すことによって環境を汚染させるのではないかとの心配がある。しかし、CDCは「下水に曝露することによって血液媒介疾患が伝播したとするエビデンスはない。殆どの血液媒介病原体は環境において長期間生きることはできないので、少量の血液や体液を下水に流しても安全である。少量の血液や体液は下水システムの機能に影響を与えない」としている1)

文献

  1. CDC. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities
    http://www.cdc.gov/hicpac/pdf/guidelines/eic_in_HCF_03.pdf
  2. EPA Guide for infectious waste management.
  3. WHO. Safe management of wastes from healthcare activities
    http://www.who.int/water_sanitation_health/medicalwaste/wastemanag/en/index.html

[註釈]
「アクティブ換気」は換気扇などで換気すること。「パッシブ換気」は機械に頼らず、自然な空気流で換気すること。汚物処理室ではアクティブ換気が望ましいが、少なくともパッシブ換気が可能でなければならない。まったく換気できないのは不適切である。

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長