皮下注射
皮下注射では「真皮の下かつ筋肉組織の上の脂肪組織」にワクチンが投与される。推奨される接種部位は大腿(生後12カ月未満の幼児)および上腕三頭筋の外側上部(生後12カ月以上の人)である(図1)。必要ならば、幼児への皮下注射に上腕三頭筋の外側上部を用いてもよい。筋肉まで到達するのを防ぐために、脂肪組織を摘み上げて、45°の角度で針を挿入し、組織内にワクチンを注射する(図2)。注射後は、針を引き抜き、乾いた綿球またはガーゼで注射部位を数秒間軽く圧迫する。
筋肉内注射
筋肉内注射では「真皮および皮下組織の下の筋肉組織」にワクチンが投与される。髄膜炎薗多糖体ワクチン製剤の一部を除く、すべての不活化ワクチンは筋肉内注射される。多くの不活化ワクチンにはアジュパント(抗原に対する免疲反応を増強するワクチン成分)が含まれているが、筋肉注射しないと、アジュパントは局所反応(疼痛、腫脹、発赤など)を増悪さてしまうからである。推奨される筋肉注射部位には「大腿の前外側部位にある外側広筋(大腿前区の大腿四頭筋のうち、外側のもの)および「上腕の三角筋」の2箇所がある。これらの部位に注射することによって、神経や血管を巻き込む機会を減らすことができる。これらの推奨辞位には大きな血管はないので、ワクチン注射の前の吸引(注射針を挿入してから薬剤を注入する前にシリンジのブランジャーを引くこと)は必要ない。
筋肉への注射部位は被接種者の年齢および筋肉の発達度によって左右される。生後12カ月未満の幼児には外側広筋が推奨される(図3)。ここは大きな筋肉量を提供するからである。臀部の筋肉は幼児および小児への注射部位としては用いられない。坐骨神経を障害する心配があるからである。生後12カ月~2歳でも外側広筋が好まれるが、十分な筋肉量があれば三角筋を用いてもよい。3歳~18歳の年齢では三角筋が好まれる(図4)。18歳以上の人にも三角筋が推奨されるが、外側広筋も使用できる。
筋肉内注射では、皮下組織への注射を避けるために、注射部位の皮膚を親指と人差し揖にてピンと張るように引き延ばし、筋肉を識別する(図5a)。筋肉組織を握って、筋肉を「束ね挙げる」という手技もある(図5b)。注射する場合には、90°の角度で筋肉内に針を十分に挿入して、ワクチンを注射する。注射後は、針を引き抜き、乾燥綿球またはガーゼにて注射部位を数秒間軽く抑える。
ワクチンの同時接種
1回の受診で複数のワクチンを同時接種するならば、解剖学的に異なる部位に接種するのが望ましい。幼児において同じ肢に複数のワクチンを接種するならば、筋肉量の多い大腿が好まれる。年長小児や成人での複数の筋肉内注射には三角筋が用いられる。接種部位は可能であれば 1インチ(2.5cm)以上の間隔をあけるとよい。そうすれば、局所反応を識別できるからである。最も反応の強いワクチン(例:破傷風を含むワクチン、肺炎球菌結合ワクチン)は可飽であれば、異なる肢に接種する。
ワクチンと免疫グロブリン製剤を同時に投与する場合には(破傷風トキソイドおよび破傷風免疫グロブリン、B型肝炎ワクチンおよびB型肝炎免疫グロブリン)、解剖学的に離れた部位から投与する。
出血異常のある人へのワクチン接種
出血異常のある人や抗凝固治療を受けている人は筋肉注射すると、その部位に血腫が発生する可能性がある。従って、出血異常のある人に筋肉注射する必要がある場合、出血の危険性を熟知した医師がワクチンを安全に役与できると判断してから接種する。そして、筋肉内に注射する前は、患者および家族に注射によって血腫ができる危険性があることについて説明しなければならない。患者が定期的に抗血友病治療または類似の治療を行っているならば、そのような治療がなされた直後に筋肉注射するようスケジュールを立てるとよい。この場合、23ゲージもしくはそれよりも細い注射針を用い、注射後少なくとも2分間はその部位をしっかりと圧迫する。注射部位を擦ったり、マッサージしてはならない。抗凝固治療を受けている患者は凝固因子異常のある患者と同程度の出血の危険性があると思われるので、筋肉注射するときには同様に対応する。
文献
- CDC. Veccine administration.
http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/downloads/appendices/D/vacc_admin.pdf
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長