毎年秋になるとインフルエンザワクチンの接種が始まる。接種現場で問題となるのが、卵アレルギーである。インフルエンザワクチンには卵の成分がごく少量含まれているので、「卵アレルギーの人がインフルエンザワクチンを接種すると重大な副作用が発生するかもしれない」との認識を医療従事者のみならず一般人も持っている。その結果、実際には卵アレルギーではなさそうな状況であっても念のために接種を避けようという努力がなされてしまう。例えば、「何年か前に蕁麻疹が出たことがあるが、その少し前に卵を食べていたかもしれない。だから、卵アレルギーかもしれない」「現在は卵料理を食べることができるが、子供の頃に卵アレルギーといわれたことがある」などである。このような場合、卵アレルギーである可能性は殆どないにも関わらず、接種されることはない。ほんの僅かでも卵アレルギーの可能性が否定できなければ接種はしないという方針の医師は数多い。そのため、卵アレルギーとインフルエンザワクチンについては何らかの基準が必要となっていた。
昨年8月にCDCの予防接種諮問委員会(ACIP:Advisory Committee on Immunization Practices)は卵アレルギーの人におけるインフルエンザワクチンの接種についての勧告を公開し、「軽く調理した卵を食べることができる人」「卵を食べることによって蕁麻疹は出るが、そのほかの問題はない人」には基本的に接種するという方針を打ち出した。勧告から1年が経過したが、重大な副反応が数多く報告されたということはなかったため、ACIPは再び同じ勧告内容を自信を持って提示したのである。それを紹介したい。
ACIPの勧告
重症アレルギーおよびアナフィラキシー反応はインフルエンザワクチンの成分に反応して発生しているものの、そのような反応は稀である。現在、利用できるすべてのインフルエンザワクチンは、鶏卵にワクチンを接種する方法で作成されている。卵アレルギーの既往のある人へのインフルエンザワクチン接種について、昨年ACIPによって概説されている1)。2011~12年のインフルエンザシーズンにおいて、ACIPは卵に曝露したあとに蕁麻疹のみを報告している卵アレルギーの人には安全策を追加してワクチンを接種すべきであると勧告した。ワクチン有害事象報告システムのデータの最近の調査によると、2011~12年のシーズンの間にインフルエンザワクチン接種のあとにアレルギーまたはアナフィラキシーが不釣り合いに多かったという報告はない。そのため、2012~13年のインフルエンザシーズンについては、ACIPは下記の勧告をおこなう2)。
- 卵の曝露後に蕁麻疹のみを経験したことのある人は下記の追加の安全策を用いてインフルエンザワクチンを接種する[図]。
- 現在までに報告された研究では3価不活化ワクチンが用いられているので、弱毒生ワクチンよりも3価不活化ワクチンを使用する(米国では生ワクチンも入手可能である)。
- 卵アレルギーの症状に詳しい医療者が接種する。
- 接種したらアレルギー反応の徴候を少なくとも30分は観察する。
- 血管浮腫、呼吸苦、頭のふらつき、繰り返す嘔吐などの卵へのアレルギー反応があった人、またはエピネフリンや他の救急処置が必要となった人(特に、卵曝露の直後または数分から数時間以内に発症した人)が卵蛋白に再曝露すると重大な全身反応またはアナフィラキシー反応を引き起こす可能性がある。そのような人については、接種の前には危険性の更なる評価のためにアレルギー状態の対処について専門医師に紹介する。
- すべてのワクチンは、アナフィラキシーの迅速な認識と治療のための人員や器具が利用できる環境にて接種すべきである。そして、すべてのワクチン提供者が緊急時計画を熟知するように推奨する。
- 卵アレルギーであると申告している人の一部は卵アレルギーではないかもしれない。軽く調理した卵(スクランブルエッグなど)を食べてもアレルギー反応のみられない人はアレルギーではなさそうである。逆に、卵アレルギーの人であっても、十分に加熱された製品(パンやケーキなど)の中の卵には耐えられるかもしれない。従って、卵を含んだ食物に耐えられたとしても、卵アレルギーの可能性は除外できない。卵アレルギーは卵および卵を含んだ食物への副反応の医学的既往に加えて、卵蛋白に対する皮膚やIgE抗体の血液検査によって確定できるかもしれない。
- インフルエンザワクチンへの重症アレルギーの既往があれば、アレルギーの原因として疑われる成分に関係なく、インフルエンザワクチンの接種は禁忌となる。
図 卵アレルギーがあるとしている人へのインフルエンザワクチンについての推奨
文献
- CDC. Prevention and control of influenza with vaccine s : Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2011
http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/wk/mm60e0818.pdf - CDC. Prevention and control of influenza with vaccine s : Recommendations of the Advisory Committee on Imm-unization Practices(ACIP)- United States, 2012 ‒13 Influenza Season
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm6132.pdf
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長