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8号 スーパー耐性菌!NDM-1産生菌
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ニューデリー・メタロβラクタマーゼ(NDM-1:New Delhi metallo-beta-lactamase)を産生するカルバペネム系耐性腸内細菌科(CRE:carabapenem-resistant Emresistant)は2007年にインドのニューデリーの病院に入院していた患者で初めて報告された。この酵素はプラスミド(宿主細胞の染色体から物理的に離れていながら、安定して機能し複製することができる遺伝的分子)にエンコード(遺伝子がタンパク質を作るためのアミノ酸配列情報を持っていること)されている。プラスミドが運ぶNDM-1は他の細菌に伝達しやすく、また、NDM-1産生菌はヒトの消化管に長期間保菌され、水源や環境表面の汚染を介して拡散してゆく。既に、世界中で検出されており、我々の診療においても登場してくる可能性がある。そのような場合、適切な感染対策を実施しなければならない。
ここではロードアイランド州( 米国の東北部にある小さな州) からの報告を紹介することによって、NDM -1産生菌についてどのように対応すればよいかの情報を提供したい。

症例の経過

ロードアイランドの住民が2011年5月に生まれ故郷のカンボジアに戻った。滞在中に脊髄圧迫が診断され、ベトナムのホーチミン市の病院に12月20~30日に入院した。そこで弛緩性膀胱に尿道カテーテルが留置された。2012年1月6日、ロードアイランドに戻り、同日に入院となった。リンパ腫が診断され、化学療法を受け、長期の尿道カテーテルが必要となった。1月13日の尿培養にて広域スペクトラムのβラクタマーゼを産生する大腸菌が検出された。そのため、接触予防策下におかれ、面会者はガウンと手袋を装着することとなった。しかし、手指衛生を実施して、清潔な衣類を着るならば、廊下を歩くことは許されていた。ただ、病室外にいるときに少なくとも1度は失禁している。

2月15日の尿培養にて、2株のカルバペネマーゼ産生肺炎桿菌が検出された。入院日から3月3日まで、患者には様々な抗菌薬が投与されていた。3月4日の尿培養でもカルバペネマーゼ産生肺炎桿菌が検出された。変法ホッジテスト(カルバペネマーゼの存在をみるための検査)は弱陽性であった。患者は無症状であったが、カテーテルは入れ替えられ、再度の尿培養は抗菌治療なしで陰性となった。

このような旅行歴と変法ホッジテストが弱陽性であることから、分離菌はCDCに送られ、NDM-1を産生するCREであることが確認された。この後、隔離予防策は変更となり、病室外で歩くことは禁止され、病室から出なければならないような診断検査や処置は制限された。そして、感染対策チームはNDM-1およびその予防策について、スタッフを啓発した。そこではCREの「疫学(特にNDM-1)」「伝播経路」「消化管で保菌すること」「感染者の治療オプションが制限されていること」を話題とした。

患者は3月26日に退院し、4月3日に採取された便検体ではカルバペネマーゼ産生肺炎桿菌は陰性であった。

この患者が入院していた血液/腫瘍病棟の患者の1人で3月30日に採取された直腸スワブ検体からカルバペネマーゼ産生肺炎桿菌が検出された。CDCによってNDM-1産生菌であることが確認された。パルスフィールド電気泳動法を用いた分子フィンガープリントによると、この患者と発端患者の分離菌は一致した。血液/腫瘍病棟のその他の患者から直腸スワブまたは便検体が培養されたが、カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌は検出されなかった。

2人の患者がCREを持っていたので、血液/腫瘍病棟にいたすべての患者がリストアップされ、診療録に印がつけられた。そうすることによって、再入院したときに直腸スワブのスクリーニング培養ができるからである。清掃サービスのスタッフは4月13日に血液/腫瘍病棟の病室および廊下の手指の高頻度接触表面(ドアノブや手すりなど)を追加清掃した。

NDM -1産生腸内細菌科の世界的拡散

2009年に最初に報告されてから、NDM-1産生腸内細菌科の症例は南アメリカおよび南極大陸を除いた全ての大陸から報告されている。英国の29症例のなかで、少なくとも17人がインドまたはパキスタンに旅行に行っており、そのなかの14人がどちらかの国で入院していた。当初、インド亜大陸での医療ケアが多くの報告に関連したが、最近の症例は流行地域を旅行するものの入院していない人で報告されている。

最近、院内感染がインド亜大陸の外で確認されている。ヨーロッパでNDM-1を産生するCREを発症または保菌している77症例のなかで、13人はヨーロッパ内での院内感染によるものであった。アジアでもNDM-1の拡散が報告されており、そこには旅行歴のない韓国の4人の患者が含まれている。同様のことが他の地域からも報告されている。

感染対策

感染対策として、侵襲的器具および抗菌薬の使用を最小限にすることに加えて、手指衛生の順守率を高くし、接触予防策(バイタルサインを監視する器具を専用に用いることを含めて)を守ることが重要である。NDM-1が同定された場合、病院や病棟の患者を調査することが、NDM-1産生のCREの保菌患者の同定に重要である。米国の病院からの最近の報告によると、ICUを対象としてCREを検出するための核酸増幅を用いた積極的サーベイランスを保菌患者への接触予防策とともに実施したところ、CRE保菌率を53%減らすことができた。

文献

  1. CDC. Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae containing New Del hi metallo-beta lactamase in two patients – Rhode Island.
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm6124.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長