新生児集中治療室(NICU:Neonatal Intensive Care Unit)は院内感染のハイリスク区域であり、多くの医療機関において、感染の制圧のための努力が行われている。2012年3月26日、米国小児学会が学会誌に「NICUにおける医療関連感染の予防のための戦略」1)を掲載していたので、興味深い記述を抜粋して紹介する。
新生児と医療関連感染
- 新生児は「宿主の防御機構の障害」「誕生時における皮膚および粘膜の防御的内因性細菌叢の不足」「皮膚のバリア機能の不足」「侵襲的処置および器具の使用」「広域抗菌薬への頻回な曝露」ゆえに医療関連感染の危険性が高い集団である。
- NICUにおける殆どの医療関連感染は幼児の生命を維持するために必要な器具や処置に由来している。それゆえ、器具の使用や処置を制限することによって医療関連感染を減少させることは難しい。
中心静脈カテーテル関連血流感染
- カテーテル関連血流感染はNICUにおける最も多い院内感染である。中心静脈カテーテル関連感染はカテーテル挿入のテクニックおよび挿入部分のケアが不十分であることが大きく関連している。
- クロルヘキシジン(2%)およびポビドンヨードは生後2カ月以上の幼児の皮膚消毒に推奨されている。しかし、米国食品医薬品局(FDA : Food and Drug Administration)は生後2ヵ月未満の幼児へのクロルヘキシジンの使用を認可していない。
- クロルヘキシジン含有ガーゼドレッシング(70%アルコールに0.5%グルコン酸クロルヘキシジンが含まれたもの)を超低体重児に使用すると、10%ポビドンヨードと比較して、中心静脈カテーテルの保菌を減らすことができる。しかし、中心静脈カテーテル関連血流感染を減らすことはなかった。また、クロルヘキシジンを使用すると、体重1000g未満の新生児の15%に接触性皮膚炎が発生した。
- 皮膚内通過路におけるカテーテルの管腔外汚染はカテーテル留置後 1 週間で発生するカテーテル関連感染の原因であると信じられている。カテーテルは挿入後の最初の 1 週間は可動性があり、挿入部位で滑るように出入りする。その結果、カテーテルの通過路に病原体を引き込んでしまう。管腔外汚染を減らすテクニックには適切な手洗い、カテーテルの無菌挿入(挿入時のマキシマルバリアプリコーションを含む)、局所の消毒、滅菌ドレッシングの使用などが含まれる。
- 留置からの最初の1週間を過ぎると、ハブを取り扱った後の管腔内保菌や汚染がほとんどの中心静脈カテーテル関連血流感染の原因となっている。カテーテルの取り扱いの頻度が中心静脈カテーテル関連血流感染の頻度と直接的に関連していることを示した報告もある。
- すべての中心静脈カテーテルは必要なくなれば、抜去することが大切である。多くのNICUでは経口栄養の量が80~100mL/kg/日に到達したときに中心静脈カテーテルを抜去している。
ガウン
- 多くのNICUでは、医療従事者や面会者が入室するときにはガウンを着るという方針をとっている。8件の研究がガウンの利点を評価したが、院内感染の減少においてガウンには効果がみられなかった。従って、医療従事者や面会者がNICUに入室するときに日常的にガウンを装着するように求めるべきではない。
- 但し、幼児が耐性菌や侵襲性病原体を保菌しているときにはガウンおよび手袋を装着すべきである。
医療関連肺炎
- 幼児の吸引処置や吸引時の体位は気道保菌に影響する。閉鎖式吸引システムの使用によって患者を人工呼吸器から引き離すことなく、気道内吸引ができる。閉鎖式吸引法は低酸素や心拍数の低下を減らすことができるので、NICUの看護師は開放システムよりも閉鎖式の方が利用しやすいと判断している。
- 閉鎖式吸引システムによる吸引を繰り返すことによって、管腔内に溜まった分泌物が下気道に持ち込まれると、細菌汚染の機会を与えることになる。しかし、閉鎖式システムは気道内チューブの環境汚染を減らす可能性がある。人工換気している成人を評価した研究では、閉鎖式システムを使用すると気道の保菌がよくみられたが、呼吸器関連肺炎の発生率は開放システムで管理された患者と同等かやや少ない程度であった。従って、CDCはどちらがよいかの推奨はしていないし、閉鎖式システムの交換時期についての推奨もしていない。
- 人工呼吸管理されている新生児においては、側臥位の方が仰臥位に比較して口腔咽頭汚染からの気道保菌は少ない(側臥位30%vs仰臥位87%)。気道内チューブおよび呼吸器回路を水平位に保つことは下気道への口腔咽頭分泌物の流入を減らせるかもしれない。また、側臥位は胃液を気道に吸い込むのを減らすかもしれない。仰臥位以外の体位を保つことによって、人工呼吸器関連肺炎の危険性を減らせる可能性がある。
その他の戦略
- 母乳は早期産児での敗血症や壊死性腸炎の危険性を減少させる。母乳には大量の免疫防御物質が含まれており、幼児における消化器および呼吸器の感染症の頻度を減らすことが示されている。
- 数多くの研究が早期産児の感染において、母乳が防御的効果を持つことを示しているが、9件の研究のメタアナリシスでは母乳の有用性が示されなかった。しかし、研究デザインが不十分であること、サンプルサイズが少ないことなどから、方法論的に問題があると思われる。
文献
- Polin RA, et al. Strategies for prevention of health care-associated infections in the NICU.
[PDF version] [HTML version]
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長