英国における注射薬使用者(PWID)の感染症に関する年次報告書、「Shooting Up」がPublic Health Englandにより発表された。この報告書は、PHE、Health Protection Scotland、Public Health Wales、およびPublic Health Agency Northern Irelandが合同で作成した。
PWIDは、HIV、HBV、HCVなどのウイルス、Clostridium botulinum及びStaphylococcus aureusのような細菌など、様々な感染症に罹患しやすく、重症化や死亡に至る可能性がある。この報告書では、精神賦活性薬物(ヘロインやコカインなど)の注射をしている者の感染症の程度とそれに関連したリスクを検証している。
HCVの陽性率は依然として高く、感染例の半数が診断されていない
C型肝炎はPWIDの血液媒介性感染症では依然として最も多く、英国のこの患者群では高頻度に伝播が起こる。PWID5人に2人がHCV陽性である。新規のDAA製剤の普及により、HCVによる疾患の発症や死亡を抑制し、伝播のリスクを低下させる可能性が高まる。HCV陽性のPWIDの約半数(48%)が診断されていないため、HCVの検査を勧め、検査を受ける患者を増やすことが特に重要である。自身の感染を知らない者のうち、22%は検査をこれまで一度も受けたことがなく、44%は2年以上検査を受けていないと報告されていた。
HIVの陽性率は依然低いが、リスクは継続して認められる
HBVは依然少ないが、ワクチン接種を、特に若年者で継続する必要がある
英国では、PWID約500人に1人がHBV陽性である。PWIDの約3/4はHBVワクチン接種を受けたと報告されているが、現在、ワクチン接種率は上昇しておらず、特に若年層(64%)及び最近注射薬を始めた者(57%)で低い。
細菌感染はいまだに問題である
PWIDの細菌感染はしばしば全身の衛生状態の悪さや未滅菌の注射器具が原因となっている。PWIDでは、細菌感染は重症化しやすく、初期症状が出てから受診するまでの期間が長くなると重症度が増すことになる。2017年にはPWIDの半数(50%)では前年に注射部位に感染兆候があったことが報告されており、これは2011-2013年の28%と比べて増加している。細菌感染のアウトブレーク、特に侵襲型A群連鎖球菌感染症はPWIDで発生が続いている。
リスクの高い注射手技は減少しているが、依然として問題である
PWIDによる注射針や注射器の供用は英国全体で減少してきたが、供用は依然として問題であり、2017年には6人に1人以上が前月に注射針と注射器を供用したことが報告されている。
精神賦活性薬物注射のパターンの変化が懸念される
英国では2017年もいまだにヘロインが最も使用されている注射薬である。イングランド及びウェールズでは近年、クラックの注射が増加しており、2017年は過去4週間に注射薬物を使用した者の51%がクラックを使用したと報告されており、2006年の35%と比べて増加している。この増加はウェールズ、イングランド東部、南東部、南西部及びイーストミッドランドで顕著であった。スコットランドではクラックの使用はかなり少なく、北アイルランドでは報告がなかった。
また、前月に鼠径部に注射したと報告されたPWIDの割合の増加がみられており、2017年には5人に2人が鼠径部に注射したと報告されている。
効果的な介入を継続及び適正化が必要である
この報告書で提示された所見から、注射による健康被害の減少及び注射薬をやめたいと考える者の支援を目的としたサービスの継続及び改善が必要であることが示されている。地域における注射針・注射器の適正使用プログラムの提供、オピオイド置換療法やその他の薬物治療など、様々なサービスを提供しなければならない。感染症に対する予防接種や検査は定期的にPWID又は以前注射薬を使用していた者に施行する必要がある。ケアのパスウェイや治療は血液媒介性ウイルスや細菌感染の診断を受けた者にとって最適なものでなければならない。