古典的な狂犬病は、いくつかのRhabdoviridae科のウイルスによる急性ウイルス性脳脊髄炎である。狂犬病に罹患した動物(特にイヌ)に噛まれる、若しくは引っ掻かれることで、汚染された唾液を介して感染する。発症すると高い確率で致死的となるため、狂犬病はまだアジアやアフリカの多くの国で大きな公衆保健上の問題であり、これらの国ではヒトの狂犬病患者の95%が死亡している。狂犬病ワクチン(ヒト狂犬病免疫グロブリンを併用することもある)による暴露後治療は、暴露後に適切かつ迅速に施行した場合、発症予防として非常に有効である。イングランドでは毎年約2000人が暴露後治療を受けており、そのうち12%は英国内でコウモリに、88%は海外で動物に暴露を受けている。
2018年2月に行われたJoint Committee on Vaccination and Immunisation (JCVI)のレビューを受け、英国における狂犬病暴露後治療(PET)及び暴露前予防療法のガイダンスが今年6月に改訂された。詳細は「Green Book」の第27章、「Immunisation against infectious disease」、及びPHEの狂犬病暴露後治療ガイドラインに記載されている。
ガイダンスの改訂を受け、予防接種実施者向けのPHE月報、「Vaccine Update」の狂犬病特集号が発行された。この特集号には、狂犬病暴露前予防療法の変更点に関する医療従事者向けの詳細なガイダンス、海外での動物による咬傷の狂犬病発症リスク、コウモリ咬傷患者の管理に関する助言、免疫抑制状態の患者の狂犬病予防、及び医療従事者によるPHE Rabies and Immunoglobulin Service (RIgS)への連絡方法が記載されている。
イングランドで新規のコウモリ狂犬病ウイルスを検出
英国は1922年以降、陸生の動物に狂犬病の発生がない状態である。しかし、狂犬病関連ウイルスであるEuropean Bat Lyssavirus-2 (EBLV-2)は、近年英国内のDaubenton (Myotis daubentonii) コウモリから定期的に検出されている。EBLV-2は古典的な(陸生の)狂犬病ウイルスで、アフリカやアジアで蔓延しており、ヒト狂犬病の原因となる。
2018年10月に英国で初めて、異なる種類のコウモリ狂犬病ウイルスであるEuropean Bat Lyssavirus-1 (EBLV-1)(欧州で報告されるコウモリによる狂犬病の多くで原因ウイルスとなっている)の存在がserotineコウモリ(Eptesicus serotinus)で確認された。このことは、コウモリから狂犬病に罹患するリスクは非常に低いが、全てのコウモリ(種に関係なく)には狂犬病のリスクがあると考えられるという事実を裏付けるものである。
感染したコウモリには症状がみられないため(英国におけるコウモリ咬傷は外見的な変化よりも感覚で分かるもので、出血や明らかな皮膚の咬み跡はない可能性がある)、英国または海外でコウモリから咬まれたり、引っかかれたり、またはそれ以外の暴露を受けたりした場合は必ず直ちに医療機関を受診し、必要に応じて暴露後治療が受けられるようにしなければならない。
コウモリと狂犬病リスクに関するPHEのリーフレット
PHEと環境・食糧・農村地域省(Defra)、英国動植物衛生庁(APHA)は一般市民向けの、コウモリとの接触に関連した狂犬病リスクに関する新たなリーフレットを作成した。このリーフレットには、コウモリを見つけた場合、コウモリが屋内に入ってきた場合、またはペットがコウモリを捕まえてきた場合の対応、コウモリに接触した場合の対応の手順が記載されている。