PHEは2017年までのデータをまとめた、イングランドにおける結核の年次報告書を発表した。さらにこのレポートでは英国の入国前スクリーニング計画、潜在性結核感染症の検査・治療、BCGワクチンの推定接種率のデータも提示されている。
このレポートにまとめられた情報、及びPHEのFingertipsツールに提示されるモニタリングデータ(2018年10月2日に発表される予定)は、「Collaborative Tuberculosis Strategy for England 2015-2020」で設定された結核制御の目標達成のための活動をサポートする際に利用される。
疫学
2017年には5,102例の結核患者の届出があり、2016年の5,616例から減少した。この減少傾向は、2012年から2015年にかけてみられた年間10%の減少へ回復した形となる。2017年は1990年以降で最低の届け出数となり、2011年のピークから38%の減少となった。2017年の罹患率は人口10万人当たり9.2例(CI 8.9-9.4)であり(2016年は10.2例(CI 9.9-10.4))、2000年に結核の強化サーベイランスが開始されて以来、最も罹患率が低かった。
イングランドで届け出された結核患者の多く(71%)は出生国が英国以外の者である。この患者群で届出数及び罹患率の大幅な低下がみられ、届出数は2016年の4,093件(人口10万人当たり49.4件、CI 47.9-50.9)から2017年は3,556件(人口10万人当たり41.1件、CI 39.7-42.4)となった。しかし、出生国が英国の患者の届出数又は罹患率はいずれも低下しておらず、2016~2017年で人口10万人当たり3.1件(CI 3.0-3,3)と横這いであった。
感受性菌の結核患者の転帰
2016年に届け出された、12か月以内に治療を完了した薬剤感受性菌結核患者の割合は、2015年の届出患者の83.7%から84.4%まで上昇した。死亡した薬剤感受性結核患者の割合はやや低下し、2015年の届出患者の6.1%から2016年の届出患者は5.5%となった。これらの死亡例のほとんど(64%)は65歳以上の高齢者であった。
薬剤耐性
耐性菌による結核(多剤耐性菌/リファンピシン耐性菌(MDR/RR-TB)が確認又は耐性として治療された)の患者数及び割合は過去3年で横這いであり、2017年には61例の届出があった。診断時にMDR/RR-TBと確認された結核患者の数(55例)は、2016年(60例)からわずかに減少したが、その割合は同等のままであった(2017年は1.7%、2016年は1.8%)。2017年には3例のXDR-TBが届け出され、2016年と比べて少なかった。
発症から治療開始までの遅延
現在も多くの割合の患者が症状発現から治療開始までに時間がかかっていた。2017年には肺結核患者の31%が治療開始まで4カ月以上かかっており、2016年と同等であった。治療開始まで4カ月以上を要していたケースは、依然として出生国が英国外の患者(28%)よりも英国生まれの患者(37%)で多かった。
社会的危険因子
1項目以上の社会的危険因子(ホームレス、薬剤及びアルコール乱用、又は受刑者)を有する結核患者の割合は上昇しており、2016年の11.0%から2017年には12.6%となった。2017年に届け出された結核患者で1項目以上の社会的危険因子を有していた者は社会的危険因子がない患者と比べて、12ヶ月以内に肺結核発症(76.6%)、薬剤耐性菌(2.7%)、予後不良、死亡(6.3%)又は追跡不能(6.5%)となる確率が高かった。
結論及び推奨
2017年はイングランドにおける結核の届出数が1990年以降で最少となり、2012年から2015年にかけてみられた年間届出数の急峻な減少を取り戻した。人口10万人当たり9.2例という罹患率はイングランドで過去最低となり、低蔓延国の基準である人口10万人当たり10例を初めて下回った。
結核罹患率の減少傾向を持続させるため、そして対策が行き届いていない人たちのニーズに応えるためには、全国的な結核制御の対策及び強化のための活動の主な全10項目の実施を継続していく努力が必要である。これを達成するための推奨事項は年次報告書の最後に概説されている。特に以下の項目を集中して行うことが重要である。
- 英国の結核入国前スクリーニング計画により、移住してきたばかりの活動性結核患者を減少させること
- 潜在性結核患者の検査及び治療により移住者の再活動性結核を予防する
- 結核の多いコミュニティ及び医療従事者に周知徹底することで診断の遅れを減少させる努力を継続する
- 結核の診断、治療及びケアサービスの質を保ち、培養による確定診断及び治療完了の割合を高めるように努める
- 結核の社会的危険因子を有する患者に注力し、対策が十分に行きとどいていない患者群に特化して統合的な対策を行っていく
結核に関する国連総会ハイレベル会合
イングランドのPHE年次報告書の発表と同時期に結核に関する初の国連総会ハイレベル会合が開かれ、結核終息を達成し、数百万人の命を救うために対策の強化及び投資を行うことを盛り込んだ各国首脳による結核対策の政治宣言が採択された。
ファーストライン治療薬に対する結核菌株の感受性予測における全ゲノムシ―ケンシングの有用性を示した研究結果が国連総会で発表された。年次報告書の発表に関連した論説では、WHOの結核終息戦略を満たす要件に全例に対する薬剤感受性検査を組み入れることを求めた。