2018年4~6月にイングランドのNHS acute Trustから法定届出により報告された、黄色ブドウ球菌(MRSA/MSSA)および大腸菌の菌血症、Clostridium difficile 感染症の発生状況に関するPHEの最新の四半期ごとの疫学的解説がthe GOV.UK のウェブサイトで発表されている。
このレポートでは、図表や地理的な情報を交え、2018年4~6月の四半期のデータを示している(2018年6月に発表された前回のレポートを更新するものである)。主要な所見は以下の通りである。
MRSA菌血症
2007年4-6月から2014年1-3月にかけて報告されたMRSA感染例全体の罹患率は急速に85%(人口10万人当たり10.2例から1.5例)の低下がみられた。その後、2014年1-3月~2018年4-6月の期間は人口10万人当たり1.5例から1.7例と横這いの状況が続いている。
2008年4-6月から2014年1-3月にかけて院内感染例の発生率は急速に79%(10万bed-days当たり4.9例から1.0例)の低下がみられた。2014年1-3月~2018年4-6月の期間のMRSA菌血症院内感染例の罹患率には変動がみられるが、おおむね横這いである。2018年4-6月の罹患率は2014年1-3月と比べて15%低い。
直近の四半期と昨年の同時期を比較すると(2017年4-6月と2018年4-6月)、MRSA菌血症院内感染例は8%低下し、10万bed-days当たり0.93例から0.86例となり、市中感染例の罹患率も人口10万人当たり1.6例から1.5例へと8%低下した。
MSSA菌血症
MSSA菌血症の法定届出が2011年1月に開始されて以来、その患者数および発生率は全体的に増加傾向である。MSSA菌血症の全報告数は2011年1-3月から2018年4-6月にかけて、2,199例から2,992例へと36%増加した。同時に罹患率(人口10万人当たり)も16.8例から21.8例へと32%上昇した。
この増加は主に市中感染例の増加によるものである。同時期(2011年1月~2018年6月)の市中感染例の件数及び発生率はそれぞれ48%及び41%増加し、1,464例から2,172例、及び人口10万人当たり11.2例から15.8例となった。同様に、同時期の院内感染例の件数及び罹患率はそれぞれ、わずか12%及び14%の増加であった(735例から820例、及び10万bed-days当たり8.4から9.5例)。
直近の四半期と昨年の同時期(2017年4-6月と2018年4-6月)を比較すると、院内発症のMSSA菌血症の罹患率は1%低下し(人口10bed-days当たり9.46例から9.53例)、一方、同時期における市中感染例の罹患率の低下は1%未満であった(人口10bed-days当たり16.9例から15.8例)。
大腸菌による菌血症
2011年7-9月から2018年4-6月にかけて、大腸菌菌血症の全報告例の罹患率は人口10万人当たり61.8例から77.9例へと26%上昇した(全報告例数は8,275例から10,700例)。同じく、同期間に市中感染例の発生率も46.9例から63.9例へと36%上昇した(全報告例数は6,279例から8,785例)。
市中感染例と異なり、院内感染例は2011年7-9月から2018年4-6月にかけて減少した。2011年7-9月には合計1,996例の報告があった。一方、2018年4-6月には1,915例が報告され、院内感染例の罹患率は10万bed-days当たり23.7例から22.3例へ6%低下した。
2017年4-6月~2018年4-6月の期間に大腸菌菌血症の全報告例数及び罹患率は両者とも5%上昇し、それぞれ10,197例から10,700例及び人口10万人当たり74.2例から77.9例となった。同時期の市中感染例の患者数及び罹患率は7%上昇し、それぞれ8,223例から8,785例及び人口10万人当たり59.8例から63.9例となった。
一方、2017年4-6月~2018年4-6月の期間の院内感染例の患者数及び罹患率は両者とも3%低下し、それぞれ1,974例から1,915例及び10万bed-days当たり22.9例から22.3例となった。
Klebsiella属菌による菌血症
2017年4-6月~2018年4-6月の期間にKlebsiella属菌感染症の全報告例数及び罹患率は両者とも8%上昇し、それぞれ2,334例から2,520例及び人口10万人当たり17.0例から18.3例となった。また、市中感染例の患者数及び罹患率も7%上昇し、それぞれ1,670例から732例及び10万人当たり12.2例から13.0例となった。
同期間の院内感染例の患者数及び罹患率は10%上昇し、それぞれ664例から732例及び10万bed-days当たり7.7例から8.5例となった。
2018年4-6月の期間のKlebsiella属菌による菌血症全体の74%(2,520例のうち1,861例)がK.pneumoniae(前年の同四半期から60%増加)で、17%がK.oxytoca(2,520例のうち440例)であり、前年の同四半期と同じ割合であった。この割合は院内発生のKlebsiella属菌菌血症と同等であった。
Pseudomonas属菌による菌血症
2017年4-6月~2018年4-6月の期間にP. aeruginosa感染症の全報告例数及び罹患率は両者とも4%低下し、それぞれ1,009例から969例及び人口10万人当たり7.3例から7.1例となった。同期間の市中感染例の患者数及び罹患率は3%低下し、それぞれ636例から618例及び人口10万人当たり4.6例から4.5例となった。同期間の院内感染例の患者数及び罹患率は6%低下し、それぞれ373例から351例及び10万bed-days当たり4.3例から4.1例となった。
C.difficile感染症(CDI)
2007年4月にCDIサーベイランスが開始されてから、Clostridium difficile(CDI)の全報告例及び院内感染例の患者数と発生率は全体的に減少してきている。2014/15シーズン以前には1-3月の四半期に、2014/15年~2016/17年には7-9月の四半期に季節性ピークを認めた。
この減少は主に2007年4-6月から2012年1-3月にかけて認めており、CDI全体の患者数(全報告例数)は16,864例から3,711例へと78%減少し、それに伴って罹患率(人口10万人当たり)は131.6例から27.9例へと79%低下した。その後、2012年1-3月から2018年4-6月にかけて全報告例数は3,711例から3,224例へ13%の減少、罹患率は人口10万人当たり27.9例から23.5例へ16%の低下を認めた。
2007年4-6月から2012年1-3月の期間には同様の、しかし大幅な減少がCDI院内感染例にみられた。感染例数は10,436例から1,613例へ85%の減少、罹患率は10万bed-days当たり112.5例から18.2例へ84%の低下となった。その後、2012年1-3月から2018年4-6月にかけて患者数はさらに33%減少(1,613例から1,082例)、罹患率は31%(10万bed-days当たり18.2例から12.6例)低下した。
直近の四半期と昨年の同四半期(2017年4-6月と2018年4-6月)を比較すると、CDIの報告例全体の感染例数及び罹患率は2%増加した(それぞれ3,304例から3,224例、及び人口10万人当たり24.0例から23.5例)。同期間で院内感染例の感染例数及び罹患率(10万bed-days当たり)は4%低下し、いずれもそれぞれ1,130例から1,082例へ、及び13.1例から12.6例となった。