英国の輸血・組織・臓器移植ドナーにおける感染症の年次報告書

Vol. 12 / No. 28
Annual review of infections in UK blood, tissue and organ donors

PHEは、合同NHS Blood and Transplant/PHE Epidemiology Unitの年次報告書、「Safe supplies: a Year of Change」を発表した。そのなかで、ドナー選定基準及び検査方針の主な変更点が大きくとりあげられている。また、2017年の輸血・組織・臓器サーベイランス計画から得られた主要所見がまとめられており、製剤の安全性が強調されている。
安全性を維持するために、英国blood serviceはドナー選定及び提供された血液・組織・臓器の検査を組合せて行っている。SaBTO、血液・組織臓器の安全性に関するDHSC専門委員会は、ドナー選定方針に関する検証及び推奨を行うことを依頼されている。性生活、注射薬使用者、刺青やボディピアスなどの行為に関連したドナー選定方針の最新の検証を受け、SaBTOは政府にいくつかの推奨事項を提示した。その結果、イングランド、ウェールズ及びスコットランドのblood serviceは2017年11月、3カテゴリー(血液媒介性の感染症のリスクが高いパートナーを有する者、男性同性愛者、及びセックスワーカー)のドナー選定基準を、最後の性行為から間隔を空ける期間を12カ月から3カ月と変更した。また、推奨はピアスの施行や注射薬使用に関しても言及されたが、輸血に関する現在の法律の関係で履行することができなかった。

献血検体の検査
2017年には検査法に2つの大きな変更が行われた。これまではすべての献血検体に対してHTLVの検査を実施していたが、2月からは新規の献血者及び顆粒球輸血に使用されるもののみNHSBTが検査を行うことになった。その他の変更点として、献血検体の少なくとも30%程度しかしていなかったE型肝炎ウイルス(HEV)の検査をすべての献血検体に行うようになり、現在使用されるすべての血液製剤はHEV陰性である。

献血検体の感染症マーカー:ウイルス感染症
2017年には英国で約100万人から約200万件の全血及び血小板献血が行われ、そのうち法定の感染症マーカーが陽性で提供臓器から除外されたのはわずか179件であった。これは非常に低い陽性率で、10,000件に1件の割合であり、最も多かったのはHBV及び梅毒のマーカーであった。一般に陽性のドナーは未診断の慢性感染であり、12カ月以内に感染したと考えられたウイルス感染はわずか4件であったことから、ドナー選定はリスクの低い者を特定するうえで極めて有用であることが示唆される。検査により感染陽性のドナーを見落とすリスクは非常に低く、HBV、HCV及びHIV感染を検出できない確率は献血200万件当たり1件未満と推定される。

献血製剤の感染症マーカー:細菌感染症

細菌感染症スクリーニングも英国全体の輸血センターで行われており、検出率は毎年比較的同じ水準にとどまっている。2017年にスクリーニングを行ったアフェレーシス及びプールされた血小板のうち、各英国blood serviceにおける陽性率は0.1%未満であった。スクリーニングで確認された細菌の多くは皮膚由来で、Propionibacteriaが最多であった。この菌種には通常、病原性はない。しかし、一部の菌種でドナー及びレシピエントに病原性を示す可能性があるため供給を行われない。細菌感染に関する安全対策では陽性製剤が供給されるリスクを完全に除去することはできず、現在も監視を続けることが重要である。
輸血による感染症は現在も極めてまれである。2017年にはblood serviceが調査した114件の事例のうち、確定診断されたのはわずか2件のみであった。1例は血小板輸血に関連したA型肝炎感染症で、市中で続いているA型肝炎のアウトブレークに関連していた。そしてもう1件は選択的にスクリーニングが行われた時期にプールされた血小板輸血に関連したHEV感染で、この献血検体はスクリーニングされていなかった。
近年、生きているドナーからの骨の提供数は、骨のストックが良好であることから減少している。2017年には2人のドナーが検査で陽性を示した。1例はHCVで、もう1例は梅毒であった。ドナーの減少により陽性率は最高となり、これはドナーの年齢を反映したものと考えられる。6例が梅毒陽性で、7例がHBV陽性であった。2017年には臍帯血のドナーで陽性だったケースはなかった。出生前診断により、HBV、HCV及び梅毒陽性者は除外されることになる。
英国は、現在及び将来の血液製剤の安全性を脅かす感染リスクを検証するための強固なプロセスを行っている。これは主に輸血において行われているものであるが、組織・臓器移植に対しても当てはまると考えられる。合同NHS Blood and Transplant/PHE Epidemiology UnitはPHE及び世界各国の様々な輸血関連団体と緊密に活動を行っている。収集されたデータはリスクアセスメントを行ううえで有用であり、検査の追加又は現在のドナー選定基準の変更につながることがある。例えば、イタリアで発生したチクングニヤ熱の結果、ドナーの受け入れは休止された。