【医師監修】インフルエンザの始まりはいつ?歴史から学ぶウイルスの特徴
2022.11.28| 感染症・消毒
インフルエンザは、毎年多くの感染者を出す人類にとって脅威となる感染症のひとつです。
人類がインフルエンザと対峙してきた歴史を知ることで、今後発生する可能性がある新たな感染症を克服するヒントを与えてくれるはずです。
この記事では、インフルエンザが流行した歴史を振り返ります。インフルエンザの予防対策の重要性を改めて認識しましょう。
インフルエンザの始まりは鳥から
インフルエンザウイルスは元々、野生の水鳥や渡り鳥が保有しており、長い年月をかけて共存関係が構築されてきたと言われています。
そのため、ウイルスがそれらの腸内や気道で増えても、通常は何らかの症状が出るわけではありません。
そうした水鳥や渡り鳥が放出する糞にはインフルエンザウイルスが含まれるため、水辺に放たれたウイルスはアヒルなど他の水鳥や渡り鳥に広がっていきます。
そこから、このウイルスが家畜として飼っている鳥類や豚などに感染し、動物種の間で感染を起こして変異を繰り返しながら、時に人に感染しやすいウイルスとなってインフルエンザの流行を引き起こしているのです。
人に感染するインフルエンザの始まりは1900年頃から
「パンデミック」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。感染が世界的に大流行することを表す言葉ですが、インフルエンザのパンデミックというのは1800年代頃からあったと言われています。
しかし、インフルエンザのパンデミック発生を科学的に証明したのは1900年頃からで、20世紀に入ってからは複数回のパンデミックが確認されています。
3つのパンデミックを見ていきましょう。
1918年~1919年のパンデミック
1918年から1919年にかけて大流行した最初のインフルエンザのパンデミックは「スペイン風邪」と俗に言われています。
スペイン風邪は世界中で感染が確認されました。感染者数は約5億人とも言われ、これは当時の世界の人口(18~20億人)の3割ほどが感染したと推定される数です。
また、世界各地で多くの死者を出し、全世界で推計2000~5000万人、一説では1億人以上が死亡したとも言われています。
日本では1918年11月から1921年7月までの3年間、このスペイン風邪が流行しました。日本の感染者数は約2300万人、死者は約38万人との記録が残されています。
スペイン風邪の流行当時は病原体が解明できませんでしたが、のちに現代のA型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)だと判明しています。
当時の感染対策も興味深く、記録によると病原体は解明されていなかったものの、気道を侵す病原体が感染者のくしゃみなどで放出され、新たな人に感染すると考えられていました。
そのため、人前での咳やくしゃみを控え、マスクを着用することが推奨されたり、大勢の人が集まる大規模な集会や娯楽施設が中止や閉鎖されたりと、現在でも取り入れられている対策が当時から行われていました。
1957年~1958年に2回目のパンデミック
1957年から1958年にかけてみられた2回目のインフルエンザのパンデミックは、俗に「アジア風邪」と言われています。原因はA型インフルエンザウイルスH2N2亜型でした。
アジア風邪は1957年4月頃から香港で広まり、その後に東南アジアやオーストラリア、ヨーロッパなどの世界各地に感染が広がりました。アジア風邪による死者は世界で150~400万人と言われています。
日本でも1957年5月にはこのインフルエンザの集団発生が小学校で見つかっており、2度の流行を経て1958年の春先に収束しています。小中学校に通う年齢層で数多くの罹患者を出したとの記録があります。
1968年に3回目のパンデミック
1968年、香港に端を発した3回目のインフルエンザのパンデミックは、俗に「香港風邪」と言われています。この原因ウイルスはA(H3N2)です。
香港風邪は、香港や台湾、シンガポールなど東南アジア全域に拡大し、日本や欧米、オーストラリアでも感染が確認され、世界各地で5万6000人以上の死者を出しました。
日本でも1968年7月に国内で感染者が確認されましたが、流行したのは10月からで、本格化したのは季節性インフルエンザとほぼ同時期でした。国内の感染者や死者は前述のパンデミックよりも低く、ワクチンの接種により罹患率が低く抑えられたとの記録もあります。
この香港風邪をもたらしたインフルエンザウイルスは、今も変異を繰り返しながら、季節性インフルエンザの「A香港型」として世界で猛威を振るっています。
インフルエンザウイルスは変異を繰り返す
インフルエンザウイルスは、ウイルスの構造の変化、変異を繰り返しながら、季節性インフルエンザとして、時に新型のインフルエンザとして人類の脅威となります。
ウイルスは自体は増殖できず、生きた細胞に寄生して(たとえば、人間の細胞に入り込んで)増殖していきますが、そのときにウイルスがもつ遺伝子に複製エラーが起こると、元のウイルスとは異なる(=変異した)ウイルスができてしまいます。
このことがインフルエンザに毎年感染してしまう理由のひとつで、一度インフルエンザにかかって抗体ができたとしても、ウイルスが変異していると、その抗体が十分に働かなくなります。これがインフルエンザウイルスに対する免疫がつきにくいと言われる所以です。
インフルエンザの予防は常にしておこう!
インフルエンザはいつ流行するかわからないため、予防が大切です。インフルエンザの感染経路は主に接触感染や飛沫感染です。予防とはその感染経路を断ち切ればよく、普段から手洗い・手指消毒を徹底して接触感染を防ぎ、外出先ではマスクをするなどしながら飛沫感染を予防しましょう。
また、人の集まる場所はインフルエンザに感染してしまうリスクが高いため、インフルエンザの流行期には人の集まる場所への外出をできるだけ控えるよう心掛けましょう。
必要に応じて予防接種を受けることも検討してください。その年に流行すると予想される流行株のワクチンを接種できるため、インフルエンザの発病をある程度予防したり、重症化を防いだりすることが期待できます。
インフルエンザに感染したときの対策
インフルエンザに特徴的な症状は、急激な高熱、関節痛、悪寒などです。もしそのような症状が現れ、インフルエンザに罹ったことが疑われる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。インフルエンザの治療薬が有効なのは、発症後48時間以内に使用する場合です。
インフルエンザに感染し、自宅で療養する場合には、水分をこまめに補給しながら、健康的な食事を心掛けましょう。また、十分に睡眠をとり、しっかりと身体を休めることが大切です。
感染者もその家族も手洗い・手指消毒を徹底して、家族間での感染を出来る限り防ぐようにしましょう。
インフルエンザは変異するので普段から予防を!
インフルエンザの歴史を振り返ってみると、変異した新しいウイルスによってパンデミックが起こっていました。今回紹介した3例のパンデミックをみても、数十年に一度のペースで大規模な流行が発生していたことがわかります。
インフルエンザのパンデミックは、今後いつ発生するかわかりません。普段からインフルエンザ予防の意識を持つことが大切です。
日常の手洗い・手指消毒などを徹底するほか、規則正しい生活を送り、予防接種などで免疫力をつけましょう。
監修者
医師:工藤孝文
内科医・糖尿病内科・統合医療医・漢方医。 福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。 現在は、自身のクリニック:みやま市工藤内科で地域医療に力を注いでいる 専門は、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病、漢方治療・ダイエット治療など多岐にわたる。 テレビ・ラジオなどのメディアでは、ジャンルを問わず様々な医療の最新情報を発信している。 NHK「ガッテン!」では、2018年度の最高視聴率を獲得した。 著書は15万部突破のベストセラー「やせる出汁」をはじめ、50冊以上に及ぶ。 日本内科学会・日本糖尿病学会・日本肥満学会・日本東洋医学会・日本抗加齢医学会・日本女性医学学会・日本高血圧学会、日本甲状腺学会・日本遠隔医療学会・小児慢性疾病指定医。
工藤医師よりコメント
歴史を振り返れば、人類がインフルエンザによるパンデミックと繰り返し戦ってきたことが分かります。ウイルスも生き残るために絶えず変異を繰り返すため、完全に撲滅することもできません。そのため、平時から予防意識をもつことが重要です。