VOL.65 【医師監修】便秘と下痢を繰り返すのはなぜ?考えられる原因と対策法を解説
この記事では、便秘と下痢のつらい症状を繰り返している方に向けて、考えられる原因と対策法を解説します。重症化する前に改善することが大切なので、原因を把握して早めに対処しましょう。
便秘と下痢を繰り返す原因は?
検査を行っても大腸がんやその他の病気が見つからず、腹痛や便秘、下痢などの便通異常の症状が慢性的に繰り返される状態のことを「過敏性腸症候群」といいます。先進国に多く、日本人の約10〜15%が過敏性腸症候群であると推定されています。
過敏性腸症候群の発症には遺伝的要因に加えて、ストレスが深く関わっていることがわかっています。例えば「職場や学校に行こうとすると、お腹が痛くなる」「試験や会議の前になると、お腹が痛くなり下痢をする」など、ストレスを感じた時の反応として、腹痛や便通異常の症状が現れるというものです。
過敏性腸症候群の症状
過敏性腸症候群は、便秘と下痢だけでなくさまざまな症状を引き起こします。症状タイプは人によって違い、大きく分けると「下痢型」、「便秘型」、下痢と便秘の両方の症状が交互に繰り返される「混合(交替)型」、そして「分類不能型」の4つです。
それぞれの症状の特徴を知り、自身の症状タイプへの理解を深めましょう。
●腹痛・腹部膨満感
過敏性腸症候群の人は、腹痛や腹部膨満感などといった症状も出ることがあります。複数の不快な症状によって、いつもお腹の状態は落ち着かず、違和感があったり、ゴロゴロしたりと気になって煩わしいものとなります。
●頭痛・吐き気などの全身症状
お腹だけでなく、頭痛や吐き気など、全身に不調が現れることがあります。ストレスなどによる交感神経と副交感神経のバランスの崩れは、血液の循環を悪くします。それによって、肩こりや腰痛なども誘発してしまいます。
加えて疲労感、動悸など、一見、お腹と関係のないように思える症状も見られます。体につらい症状が増えたり、強くなったりすると、その苦しみは2倍、3倍にもなってしまうでしょう。
●イライラなど心理的症状
過敏性腸症候群に伴って自律神経が乱れると、全身症状だけでなく心理的症状も引き起こす可能性があります。イライラする、怒りっぽくなる、夜も眠れない、といった症状を訴える人がいます。そして、さらにストレスが溜まるといった悪循環に陥ってしまうのです。どちらかというと、神経質な人に多いようです。
便秘と下痢を繰り返す他の原因は?
過敏性腸症候群と疑われる症状があっても、大腸がんや大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎など大腸のほかの病気が隠れている場合もあるので、専門医の意見を聞くことが大切です。
大腸がんは、大腸の粘膜で発生して少しずつ大きくなります。やがて粘膜から大腸の壁に侵入して外側にまで広がり、リンパや血液を介して各所に転移していきます。初期の段階では自覚症状がほとんどありませんが、進行していくと便に血が混じる血便や、大腸内部での出血によって便が赤黒くなる下血が起こります。
大腸ポリープは、大腸の粘膜層の一部がイボのように隆起したものです。ほとんどの場合、自覚症状はありませんが、肛門近くにポリープができると、血便や、粘液のようなものが付着した便が出ることがあります。
潰瘍性大腸炎は大腸の内部に炎症が起きて、ただれや潰瘍ができる病気です。下痢に加えて血便が見られます。発熱や体重の減少が起きることも多いです。免疫の異常や、ある種の細菌が原因と言われていますが、まだ不明な部分が多い病気です。
便秘と下痢を繰り返す症状の対策方法
過敏性腸症候群はストレスが深く関わっているので、まずは原因となるストレスを見つけ、取り除くように努力することが必要です。それとともに、規則正しい生活、十分な睡眠や休息、バランスのよい食事、適度な運動を心掛けることが大切です。
友人と他愛もないおしゃべりをする、打ち込める趣味を見つける、自分に合ったストレス解消法を見つけることも必要でしょう。ここからは、具体的な対策方法を紹介していきます。
●ストレスをため込まない
現代社会の生活においては、ある程度のストレスは避けられないでしょう。ストレスがあっても、それを受け止める心の状態が大切です。職場や家庭のトラブルがストレスとなっているのなら、前向きに取り除く努力をしましょう。
ストレスを上手に解消する術を身につけることも必要です。スポーツをする、気軽に語り合える友人を持つ、没頭できる趣味を持つなど、自分に合った気分転換法を見つけ、ストレスの解消に努めて下さい。
●生活のリズムを見直す
普段の生活を振り返り、1日のリズムが乱れている人は、起床時間、3度の食事、就寝の時間帯をなるべく毎日一定にするように心掛けて下さい。これらを規則的にすることで生活全般のリズムが整いやすくなります。
睡眠や休養も十分に取れるようになるため、ストレスの影響も受けにくく、過敏性腸症候群が起こりにくい心身を作ることができます。
●バランスのよい食事を心掛ける
食生活を改善するにあたり、まずは日々の食事を見直すことから始めてみましょう。基本は、朝・昼・晩の食事を欠かさず、規則正しく摂ることが大切です。
果物や野菜、きのこ、海藻などに多く含まれる食物繊維は、下痢型、便秘型のどちらにも改善効果があるとされています。
また、乳酸菌を含むヨーグルトなどの乳製品は、毎日の食事で積極的に摂りたい食品です。腸内環境が整えられ、便通異常が改善されると考えられています。お腹の調子が悪くならなければ、続けて摂ることをおすすめします。
反対に、油脂を使った料理、冷たい物、カフェインやアルコール、香辛料などの摂り過ぎは症状を悪化させることがあるので、控えた方が良いでしょう。
便秘と下痢を繰り返す場合は、まずは医療機関を受診しよう!
慢性的な腹痛や便秘、下痢などに悩まされていても、体質のせいだと諦めていたり、市販の下痢止めや便秘薬を使って我慢したりして、医療機関を受診する人が少ないのが実情です。過敏性腸症候群は命に関わる病気ではありませんが、QOL (生活の質)を著しく下げることは間違いありません。
過敏性腸症候群は適切な治療で治すことができる病気です。過敏性腸症候群が疑われたら、一度医療機関を受診しましょう。この病気は腹痛や便通の異常などの身体症状に加えて、精神的な面も関連しているので、診療科は胃腸科や消化器内科、そして心療内科やメンタルクリニックなどが勧められます。
- 工藤医師よりコメント
- 腸内環境はストレスの影響を受けやすく、過敏性腸症候群では特にストレスや生活習慣が病気の状態に大きく左右します。症状を緩和するためには、原因となるストレスを見つけ、自律神経の乱れを改善することが大切になります。
- 監修者
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医師:工藤孝文
内科医・糖尿病内科・統合医療医・漢方医。
福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。
現在は、自身のクリニック:みやま市工藤内科で地域医療に力を注いでいる。
専門は、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病、漢方治療・ダイエット治療など多岐にわたる。
テレビ・ラジオなどのメディアでは、ジャンルを問わず様々な医療の最新情報を発信している。
NHK「ガッテン!」では、2018年度の最高視聴率を獲得した。
著書は15万部突破のベストセラー「やせる出汁」をはじめ、50冊以上に及ぶ。
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本肥満学会・日本東洋医学会・日本抗加齢医学会・日本女性医学学会・日本高血圧学会、日本甲状腺学会・日本遠隔医療学会・小児慢性疾病指定医。