VOL.152 【医師監修】浣腸を使うには潤滑油が必要?主な種類や基本的な使用方法、注意点を解説
頑固な便秘を解消するために、浣腸の使用を検討している方もいることでしょう。浣腸する際には潤滑油も必要なのか知っておきたいところです。
今回は浣腸に使用する潤滑油の種類や、潤滑油を用いた浣腸の使用方法を紹介するとともに、浣腸の使用にあたっての注意点も解説します。
浣腸とは?
浣腸とは「グリセリン浣腸剤」が一般的です。第2類医薬品として市販されていて、直腸に溜まった便を直ぐに排出する効果があります。
グリセリン液を直腸内に注入すると、腸管の内外で浸透圧差が生じ、その差を解消するように腸管内に水分を引き寄せます。その結果、便が柔らかくなり、腸を刺激して便の排出が促されます。
また、浣腸は肛門にノズル部分を挿入し、直腸内に薬液を注入して使います。浣腸は投与方法が特殊なので、正しく、かつ安全に使用する必要があります。また、浣腸は毎日使用するのではなく、1週間に2回程度を目安にします。
浣腸を使用するタイミング
浣腸を使用するタイミングも重要です。
直腸に溜まった便が硬く、過度のいきみが必要で排便困難感(出しづらさ)や残便感(まだ残っている感じ)がある場合や、便意を感じにくく、排便が一定期間ない場合に、浣腸を使用するのが効果的です。
一方で、直腸に便が下りてきていない状態で浣腸しても、本来の効果は得られにくいです。適切なタイミングに浣腸を使用するようにしましょう。
浣腸を使用する際に必要?潤滑油の種類とは
潤滑油は浣腸のノズルの先端部分に塗布することで、肛門への挿入がスムーズにできるようにしますが、必ずしも塗布が必要というわけではありません。
もし、潤滑油を塗布する場合には、ノズルの注入口を塞がないように、先端のノズル外周に薄く塗る程度に留めるようにしましょう。
潤滑油にはワセリンやオリーブオイルが適しています。肛門に挿入する際に滑りを良くし、ノズルと皮膚が擦れる不快感を軽減してくれます。
しかし、こうした潤滑油を準備することができない場合には、少量の内容液を利用することも可能です。
浣腸の潤滑油①ワセリン
ワセリンは石油を原料とし、様々な精製工程を経てつくられています。
その用途は多岐にわたり、化粧用には保湿やスキンケアに使用されたり、工業用には潤滑を目的に使用されたりします。浣腸する際の潤滑にもワセリンを使用することができます。
浣腸の潤滑油②オリーブオイル
オリーブオイルはオリーブの果実から得られる植物油です。化粧用には美容を目的に皮膚を保護したり、うるおいを与えたりするのに使います。工業用には潤滑を目的に使用されることもあります。
また、オリーブオイルには食用のものもあり、それは風味や味わいを重視した商品が多く、さまざまな成分が含まれています。浣腸の潤滑には食用でないオリーブオイルを使いましょう。
浣腸の潤滑油③内容液
グリセリンはヤシ油やパーム油からつくられる植物油です。グリセリンは浣腸液の調剤に用いたり、湿潤・粘滑剤として用いたりします。
このグリセリンを50%の濃度に調製したものがグリセリン浣腸液ですので、この液を潤滑に使用する場合には、ノズルの先から少量だけ出し、ノズル外周部に塗布するようにしましょう。
潤滑油を用いた浣腸の使用方法
浣腸は適切に使用しないと十分な効果が得られないだけでなく、誤った使用方法によって腸粘膜の損傷や出血などのリスクがあります。
浣腸の使用方法は浣腸容器の形状(ノズルの短いイチジク型の浣腸とノズルの長いジャバラ型の浣腸)によって異なります。
以下に潤滑油を用いた浣腸の手順を説明します。なお、具体的な手順は、医薬品の添付文書や説明書きなどもあわせて参照しましょう。
①浣腸液はあらかじめ40℃程度に温めておくと良いでしょう。とくに冬場は浣腸液も冷えていることが多いので、湯煎で温めておくと、液を注入したときに不快感が少ないです。
②浣腸容器のノズル部分に付いているキャップを取り外します。下図のように、ノズルの先端にワセリンやオリーブオイルなどの潤滑油を塗ります。
なお、ノズルの長いジャバラ型の浣腸を使用する場合には、潤滑油を塗る前にストッパーの位置を挿入深度にあわせておきましょう。
【図】ノズルの先端に潤滑油を塗布するイメージ図
③身体の左側を下にして横向きになり、ひざを少し曲げて寝転がります。この姿勢が浣腸時の基本姿勢で、浣腸液が直腸からS状結腸まで流れ込みやすく、浣腸の効果が得られやすいといわれています。
一方で、洋式トイレの便座に腰掛けて座位で浣腸する場合もあるのですが、その場合にはノズルの短い浣腸(イチジク型の浣腸)を使用するようにしましょう。
ノズルの長いジャバラ型の浣腸では、ストッパーの下に右手(親指と人差し指)を添えるようにノズルを持ち、浣腸のノズルを肛門に静かに挿入します。挿入している最中に抵抗を感じたら挿入を一旦止め、少し引き戻してノズルの向きを変えてから、ノズルを再度挿入するようにしましょう。
一方で、ノズルの短いイチジク型の浣腸を使用する場合は、薬液充てん部を右手で持って、静かに挿入しましょう。
④グリセリン浣腸液をゆっくりと注入します。注入するスピードは、30gの製品であれば10秒程度の時間をかけて浣腸液を注入するのが目安です。注入のスピードが早すぎると、排便反射が起こって浣腸液がすぐに排出されてしまうことがあり、直腸壁の急激な膨張が起こり危険です。
⑤注入後は静かに浣腸ノズルを肛門から抜き去り、直ぐに肛門部をトイレットペーパーなどで覆って浣腸液が漏れないようにします。2~3分程度は便意を我慢するのが理想ですが、便意が十分に強まればトイレで排便するようにしましょう。
浣腸を使用する際の注意点
浣腸を使用する場合は、前もって注意点があることも知っておきましょう。
まず、痔や出血がある方はグリセリン浣腸を使用できません。痔や出血があり、便秘にも悩んでいる方は医療機関を受診して相談しましょう。
また、重度の便秘症の方は浣腸をしても効果が出ない可能性があります。浣腸をしても便秘が解消されない場合も早めに医療機関を受診するようにしてください。
浣腸以外の便秘改善方法
浣腸をするほどの頑固な便秘に悩んでいる場合は、まず医療機関で原因を知ることが大切です。便秘の治療とあわせて、日常生活でできる改善方法も試してみましょう。
以下では日常生活でできる便秘の改善方法を紹介します。
腹部マッサージ
マッサージで腸を刺激すると排便を促す効果が期待できます。運動が困難な方や普段から便秘に悩んでいる方は腹部マッサージを試してみると良いでしょう。
腹部のマッサージは、「の」の字マッサージと腸揉みマッサージがあります。
「の」の字マッサージは仰向けになり、膝を少し曲げ、おへその下から大腸の位置をなぞるように「の」の字を描くように動かします。
腸もみマッサージは、まず両手で腰をつかみます。お腹に当たるほうの指で、痛くない程度に押しながら、手を上下に少しずつ移動させます
次に、両方の手の指を揃え、おへそから3cmほど左横に当てます。そこから、おへその右横まで、浅い「U」の字を描くように指先で押していきましょう。
どちらのマッサージも簡単に行えるので、時間があるときに試してみてください。
適度な運動
運動不足になると腸の動きも弱くなりがちです。全身を使って運動することで血流が良くなり、腸の動きも促されやすくなります。
健康を維持するためにも運動習慣を身に付けると良いでしょう。自宅でできる腹筋運動や30分程度のウォーキングなどの有酸素運動を取り入れると良いでしょう。
栄養バランスの整った食事
栄養バランスの偏った食事、食事の量や回数を減らすなどのダイエットは便秘の原因になります。便のもとが減るので、排便回数が減ってしまいます。
このパターンの便秘では、偏った食事にならないよう1日3食しっかり食べること、そして食物繊維が豊富な食品を積極的に摂ることが対策です。また、発酵食品を摂ることで腸内環境改善効果も期待できます。
食物繊維が多い食材は、海藻類、きのこ類、こんにゃく類、豆類、果物類、イモ類などがあります。発酵食品は、みそ、納豆、オリゴ糖、乳酸菌を含むものなどがあります。
こまめな水分補給
体が脱水状態になっていると、便に留まる水分量も減ります。便の水分量が減ると便が硬くなり、便秘が悪化してしまう可能性があります。普段からこまめな水分補給を心がけ、体が脱水状態にならないようにしましょう。のどが渇いたと感じる前に水分を摂るのが望ましいです。
水分摂取は水、白湯、麦茶、ルイボスティーなどがおすすめです。
規則正しい生活
生活が不規則の方は規則正しい生活を意識しましょう。
腸の働きは交感神経と副交感神経のバランスによってコントロールされています。十分な睡眠を確保するとともに、就寝や起床の時間をある程度決め、食事の時間も決めておくと、胃腸の消化吸収のリズムが整いやすくなり、自律神経も整ってきます。
また、起床後から朝食後にかけては、大腸の動きが活発になりやすいので、このタイミングでトイレに行き、排便習慣を身に付けると良いでしょう。
酸化マグネシウム便秘薬を試してみる
酸化マグネシウム便秘薬は、腸を直接刺激する成分を含まない非刺激性の便秘薬なので、お腹が痛くなりにくく、クセにもなりにくいという特徴があります。
腸管内に水分を引き寄せる作用により便を柔らかくする効果が期待できます。ただし、酸化マグネシウム便秘薬も常用を避け、用法用量を守って正しく使うことが大切です。
浣腸を使用するときは潤滑油を使ってみよう
すぐにでも便秘を解消したい方は浣腸を活用する方法があります。浣腸を使用する際は、潤滑油を使用すると挿入がスムーズになります。その潤滑油には、ワセリン、オリーブオイル、少量の内容液(グリセリン浣腸液)があります。
今回紹介した適切な浣腸の手順を参考に、製品の添付文書などをよく読んで、安全に使用するようにしましょう。
浣腸に頼らなくてもよくなるように、普段から便秘を予防することも大切です。紹介した便秘改善方法もあわせて行ってみましょう。
- 白畑医師よりコメント
- 便秘に悩む方は生活習慣の改善や見直し・投薬などで対応し改善が無い場合は浣腸を正しい知識で使用しましょう。浣腸を使用する際は潤滑油を上手に使用し安全に快適に使用しましょう。また浣腸するも便秘が改善しない場合は必ず医療機関を受診しましょう。
- 監修者
-
医師:白畑敦
昭和大学医学部を卒業後、昭和大学藤が丘病院、市中病院で消化器外科医として勤務。大腸肛門病疾患でも研鑽を積み、2017年しらはた胃腸肛門クリニック横浜を開設。大腸疾患(内視鏡治療・便秘治療・炎症性腸疾患など)・肛門疾患(痔核手術・便失禁治療など)を専門分野として診療。