VOL.13 便秘の診療ガイドラインが作られた狙いと、気になる内容をチェック!
排便のペースは人によって違うので、1日に複数回出る人もいれば、週に2、3回しか出ない人もいます。そのため、“便秘”を感じるタイミングも、人によってさまざま。どこからを便秘だと判断すれば良いのか分からず、悩んだ経験を持つ人もいるのではないのでしょうか。
実は、日本にはこれまで便秘に関して統一された定義がありませんでしたが、2017年10月に初めての診療ガイドラインである「慢性便秘症診療ガイドライン」が作られました。今回は、このガイドラインについて紹介します。
「慢性便秘症診療ガイドライン」とは
・便秘の定義や分類、治療法がまとめられた日本初のガイドライン
「慢性便秘症診療ガイドライン」は、日本消化器病学会の附置研究会である「慢性便秘の診断・治療研究会」によって日本で初めて作られた便秘の診療ガイドラインです。これまではバラバラな基準で判断されていた“便秘”についての定義を統一し、科学的根拠に基づいた診断基準や治療法などがまとめられています。
・便秘の診療ガイドラインが作られた背景
排便習慣には個人差があるため、1日出ないと「便秘だ」と感じる人もいれば、4日以上経ってから便秘を認識する人もいます。日本では、これまで便秘をあまり深刻な問題だと認識していなかった人が多く、便が出ない期間が少し続いても、食事や生活習慣の改善などで治そうとする傾向がありました。病院でも生活習慣の改善指導や下剤の処方などの処置で済まされ、患者にとって十分な治療が行われないこともあったようです。
しかし最近では、便秘がもとで病気になったり、反対に重大な疾患が原因で便秘が起きたりする可能性が少なくないことが分かり、便秘は以前より深刻に捉えられるようになってきました。現在、日本の便秘患者数は1,000万人を超えると言われていますが、その中でも特に多いのが高齢者。その理由としては、年齢を重ねるとともに、筋力や消化器官の働きが落ちてくることなどが考えられています。
便秘患者の増加は高齢化の進行に伴い、今後さらに深刻化すると考えられています。また、重度の便秘患者も増えると予想されているため、これまでのように下剤を処方するだけでは対応しきれなくなる恐れが出てきました。そこで、便秘の定義を統一化し、適切な診断と治療ができる体制を整えるために、ガイドラインが制定されたのです。
便秘の診療ガイドラインの内容について
「慢性便秘症診療ガイドライン」では、便秘について次のような内容が決められています。
●便秘の定義
「本来なら体外に排出すべき糞(ふん)便を、十分量かつ快適に排出できない状態」と定義。つまり、便秘は「症状名」や「疾患名」ではなく、「状態名」であると規定されているのです。
この「本来なら体外に排出すべき糞(ふん)便を、十分量かつ快適に排出できない状態」には大きく分けて2種類のタイプがあり、1つが「排便回数や排便量が少ないために糞便が大腸内に滞った状態」、もう1つが「直腸内にある糞便を快適に排出できない状態」であるとされています。
これまでは、「3日以上排便がない、または毎日排便があっても残便感がある場合」という日本内科学会の定義が一般的でしたが、慢性便秘症診療ガイドラインの定義によると、週に3回程度の排便でも、腹部の膨満感や残便感などがなければ問題はないということになります。
●下剤の使用方法
治療薬に関しては、新規に開発された科学的根拠のある便秘薬などが記載されています。例えば、過敏性腸症候群の便秘型に使われるリナクロチド(リンゼス)は、2017年3月に登場した薬です。また、2012年に約30年ぶりに保険適用薬として使えるようになったルビプロストン(上皮機能変容薬)は、ガイドラインにおいて最も高い推奨度で評価されています。
酸化マグネシウムに関してもこのガイドラインにおいて最も高い推奨度で評価されています。
その一方で、これまで便秘薬として多く用いられてきたセンナやアロエなどについては、常用すると大腸にトラブルを引き起こす可能性があることから、ガイドラインでは「長期間の使用は避けるべき」とされています。
日常生活でできる便秘対策とは
●食物繊維の摂取
便秘を解消するために食物繊維を摂取する方法は有名です。食物繊維は善玉菌を増やして腸内環境を健康にするだけでなく、便のカサを増やして腸壁を刺激し、腸のぜん動運動を促進する働きがあると言われています。
慢性便秘症診療ガイドラインでも、食物繊維が不足している人には、便秘解消の効果が期待できるとされています。ただし、推奨度は「弱い推奨」にとどまっており、「過剰摂取は便秘を増悪する」という指摘もあります。食物繊維は摂取量が多いほど良いというものではなく、あくまで“適度に”摂ることが大切なようです。
また、腸のぜん動運動が弱まって便が滞っている状態(大腸通過遅延型便秘)の人は、摂取した食物繊維が詰まって便秘を悪化させてしまう可能性も考えられるようなので、注意する必要があります。
●ビフィズス菌や乳酸菌などを含む食品の摂取
ビフィズス菌や乳酸菌は、腸内細菌(腸内フローラ)のバランスを整えることで腸内環境を健康に保つ効果があると言われています。特に食物繊維と一緒に摂るのが良いと考えられており、これまで果物とヨーグルトなどを合わせた便秘解消メニューなどが多く紹介されてきました。
ビフィズス菌や乳酸菌のように、人体に良い影響を与える微生物のことをプロバイオティクスと言います。今回の慢性便秘症診療ガイドラインでは、プロバイオティクスの便秘解消効果についても触れられており、これらの摂取は便秘対策の一つとして挙げられています。しかし、推奨度については、エビデンスが十分でないことを理由に「弱い推奨」にとどまっているようです。
まとめ
今回は、日本で初めて作られた“便秘”のガイドラインを紹介しました。これは、医師が適切な診断と治療ができる体制を整えるために作られたガイドラインですが、薬の情報や便秘の解消法などについては、患者も知っておいて損はありません。ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。