VOL.36 【医師監修】睡眠は便秘解消に効果的!? その理由と便秘解消法について
睡眠不足や睡眠障害は、便秘の原因の一つとして考えられていますが、なぜ睡眠が便秘に関係するのでしょうか? 今回は、便通と睡眠の関係と、便秘を解消するためのポイントについて紹介します。
睡眠と便秘の関係
便は腸が波打つように動く「ぜん動運動」によって、腸内を移動し体外へと押し出されます。この腸の動きは交感神経と副交感神経という自律神経によってコントロールされており、特に副交感神経が優位になると、ぜん動運動も活発になるといわれています。副交感神経が優位になるのは、リラックスしている時や睡眠時。ぐっすりと眠っている間に腸がしっかりと動くことで、翌朝に便が出やすくなるというわけです。
逆に、睡眠時にストレスを感じたり、眠りが浅かったり、十分な睡眠時間が取れなかったりすると、睡眠時であっても交感神経の方が優位になって、腸の動きが鈍ってしまいます。それによりぜん動運動も低下するので、便がうまく押し出されず、便秘が引き起こされてしまうのです。一見関係のないように思える「睡眠」と「便秘」ですが、両方とも腸のぜん動運動と大きく関わっているようです。
便秘によって起こる腸内の変化
睡眠の質が低下すると、腸が便を押し出す働きも低下し、便秘になる可能性があることが分かりました。便秘になってしまうと、腸内では次のような変化が起こります。
・悪玉菌が増える
人間の腸内には100兆個を超える腸内細菌が住みついており、特に大腸内の菌の量が多く、総重量は1~1.5kgに及ぶといわれています。これらの腸内細菌は、大分すると「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3種類に分けられ、それぞれが腸内に一定のバランスで存在することで腸の健康状態を保っています。
しかし、便秘になると便に含まれるタンパク質などの未消化物質が悪玉菌のエサとなり、悪玉菌が増加します。悪玉菌が増えすぎると、腸内細菌のバランスが乱れて腸の動きを鈍らせる原因となるようです。
・有害物質が発生する
便が腸内にたまった状態が続くと、腸内のタンパク質やアミノ酸が腐敗し、それを悪玉菌が分解することで、腐敗臭をともなった有害物質が発生します。この有害物質は、通常であれば便と一緒に体外へと排出されますが、便秘の際は行き場をなくして、腸粘膜から血中に吸収されます。有害物質を含んだ血液はドロドロの状態になるため、腸の血流が滞り、動きが鈍る原因になるようです。
このような腸内の変化は、便秘を悪化させ、ますます便が出にくくなる一因になると考えられます。便秘を根本的に解消するためには、便秘を引き起こす原因となった質の低い睡眠を改善することが重要になります。
睡眠の質を上げて、便秘を解消しよう!
睡眠時のストレスや不眠が原因で起こる便秘を予防・解消し、腸内環境を健康に保つためには、睡眠の質を上げて、腸の動きを高めることが大切です。ここでは、質の良い睡眠をとるためのポイントを紹介します。
・早く布団に入る
睡眠不足はストレスの原因になるので、交感神経が優位に働き、腸の動きを鈍らせてしまいます。リラックスしてぐっすり眠るためには、夜更かしをせずに早く寝ることが大切。休日もなるべく普段と同じ就寝時間を心がけ、早めに就寝するようにしましょう。
・適度な運動をして眠りやすくする
就寝前に簡単なヨガやストレッチをしてリラックスすることで、副交感神経を優位にさせることもできます。入眠がスムーズになるとともに、深い眠りにつくことができるでしょう。
<就寝前にオススメ!ガス抜きのポーズ>
腹部の血行を促進し、お腹の張りや不快感を解消するヨガポーズ。リラックス効果や鎮静効果も期待できます。
- ①あお向けに寝て、両膝を胸へ近づけるように抱えます。
- ②両膝を上げたまま両肩を床につけ、ゆっくりと5回ほど呼吸します。息を吐くたびに太ももをお腹に引き寄せるように意識してください。
- ③手足を楽な位置に戻し、深呼吸をして終了です。
睡眠以外の便秘解消方法も合わせて試してみて
便秘の解消効果をより高めるためには、睡眠の質の向上と合わせて次のような解消法を試してみるのもオススメです。
・生活習慣を整える
スムーズな排便を行うためには、毎朝便意が起こるように体内のリズムを整えることが大切。まず生活習慣を見直すことから始めてみましょう。
毎日決まった時間に起床や食事、就寝をすることで、体のリズムが整います。また、毎日同じ時間にトイレに座る時間を作ることも重要です。最初は便が出なくても、それを続けていくことで、排便習慣が整い、便が出やすくなるはずです。
・食物繊維と水分をしっかり取る
食物繊維は、人間の消化管で分解(消化)されることなく大腸へ達する成分で、腸内の善玉菌のエサとなって善玉菌を増やしたり、便の材料となってカサを増すことで腸のぜん動運動を促したりする作用があります。そのため、食物繊維が豊富な野菜や海藻類を積極的に取るのがオススメです。
また、食物繊維には水を吸って膨らむ性質もあるので、水分と合わせて摂取することでより効果を発揮すると考えられます。
・腸内環境を整える食品を取る
便秘時の腸内は悪玉菌が増加している状態なので、乳酸菌などの善玉菌を摂取することで腸内細菌のバランスを整えることも大切です。みそやヨーグルト、キムチなどの発酵食品を食べると良いでしょう。
・便秘薬を飲む
生活習慣や食生活の改善だけでは便秘が解消できない場合や、便秘の症状を早く解消したい時には、下剤を服用するのも有効です。ただし、薬を使う場合は、薬のタイプや効果をしっかりと理解した上で、自分に合うものを選びましょう。
下剤は大別すると「非刺激性」と「刺激性」に分けられます。非刺激性下剤は、腸ではなく便に働きかけ、便の水分量を増やすことで便を柔らかくしたり、便のカサを増やすことで腸を刺激し、腸の動きを促したりする働きがあります。一方、刺激性下剤は、大腸に直接刺激を与えることで腸の動きを促し、便を排出させます。ただし、腸に直接作用するため、腹痛を感じる場合があり、連用すると薬が効きにくくなる可能性も考えられるようです。
一般的には、まず非刺激性の薬を服用し、それでも便が出なければ刺激性にするケースが多いですが、使い始める前に医師や薬剤師へ相談してみるのが良いでしょう。
まとめ
「睡眠」と「便秘」は、結びつきにくいかもしれませんが、実は大きく関連しています。不眠による便秘に心当たりがある人は、まずは質のよい睡眠時間を確保することから始めてみると良いかもしれません。今回紹介した食事や生活習慣の改善ポイントも参考にしてみてくださいね。
- 木村医師よりコメント
- 身体の働きは、なんらかの形で影響し合っていることが多いです。そのため、便秘が困る、睡眠が困るというのではなく、どちらかをよくすると両方改善される、ということも少なくありません。また、夜眠れないという方は、まずは朝の起床時間を平日休日とも同じ時間を保つことを心がけてみてください。睡眠を改善する第一歩は、起床時間を一定にして朝食を摂る、カーテンを開ける、など体内時計をリセットすることからです。
- 監修者
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医師・木村眞樹子
都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。