コラム

【医師監修】アトピーにワセリンは効果的? 発症を予防できる可能性も

2022.12.08|乾燥肌・スキンケア

湿疹ができて、肌がかゆくてたまらない、乾燥してガサガサする…。そんな症状に悩まされるアトピー性皮膚炎。原因や症状には個人差があるものの、その対策には共通して肌を乾燥や刺激から守るケアが大切だといわれています。そんなアトピー肌の保湿ケアにワセリンがよいと耳にすることがありますが、実はワセリンを使用する是非については意見が分かれているようです。今回は、アトピー肌へのワセリンの使用について、どのような見解があるのかご紹介します。

アトピー性皮膚炎にワセリンは効果あるの?

保湿ケアするイメージ

●アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎とは、かゆみのある湿疹がみられる皮膚の病気で、よくなったり悪くなったりを繰り返してなかなか完治しないのが特徴です。乳幼児期に発症して、成長とともに治まるケースが多いですが、大人になっても完治しなかったり、思春期や大人になってから発症したりするケースもあるようです。

通常、健康な肌は、肌の表面を覆う「皮脂膜」や「角質層」がバリアとなって、外部の刺激やアレルゲンから肌を守ると同時に、肌内部から水分が出て乾燥するのを防いでいます。アトピー性皮膚炎を発症するメカニズムについては解明されていないこともありますが、その根本には、このバリア機能が低下し、肌が乾燥している状態があり、そこにダニやホコリ・食べ物などのアレルゲンが侵入したり、精神的なストレスが加わったりして引き起こされると考えられています。発症が疑われる場合は、専門医による指示のもと治療を受けるとともに、家庭でもしっかり保湿ケアを行うことが大切です。

●ワセリンを使った保湿ケア
アトピー性皮膚炎が疑われる場合、症状に基づく診断に加え、アレルギー検査で原因を特定して生活習慣を見直すことで改善を目指します。さらに、炎症を抑える塗り薬や内服薬などによる薬物治療と、皮膚のバリア機能を強化して再発を防ぐための保湿ケアを行います。その際、医療機関によってはワセリンが処方されることがあります。

保湿剤として知られるワセリンは、肌に薄い油膜を作ることで肌内部から水分が蒸発するのを防いだり、外の刺激から守ってくれたりする役割を果たします。副作用の心配も少ないことから、アレルギー体質の人や、敏感肌の赤ちゃんにも使用できるとされています。ただし、ワセリンの使用は、症状の程度や、乳幼児か大人かなどによって判断されるため、自己判断ではなく、必ずかかりつけ医の指示に従うようにしましょう。

ワセリンがアトピーに効果的だという意見

ワセリンの油膜が皮膚のバリア機能の役割を担うことから、軽度のアトピー性皮膚炎の保湿ケアにワセリンを用いるケースがあります。また、アトピー性皮膚炎は一度治ったと思っても繰り返し症状が現れることの多い病気なので、外用薬で症状が改善した後にワセリンなどで保湿ケアを続ければ、安定した状態を保ちやすいと考えられています。そのほかには、以下のような効果が期待されています。

医師の解説イメージ

●湿疹や掻き傷の保湿・保護
アトピー性皮膚炎を引き起こすと強いかゆみに悩まされます。日中は気を付けていても、就寝中、無意識のうちに掻きむしってしまい、肌を傷つけ、治りを遅らせてしまうこともあるかもしれません。そこでワセリンを塗ることで、油膜が皮膚を保護してくれるので、うっかり掻いてしまっても肌を傷つけずに済みます。また、衣類や寝具との摩擦からも守ってくれるでしょう。

さらに、ジュクジュクした湿疹から浸出液が出ることがありますが、この浸出液には皮膚の再生を促す物質が含まれています。そのため、拭き取ったり乾燥させたりせず、油膜によって閉じ込めることで、傷や炎症の治りが早く、傷あとも目立ちにくくなると考えられています。

●汗の刺激から守る
アトピー性皮膚炎の場合、汗をかくとかゆみが増すことがあります。そうした汗によるかゆみ予防として、運動前などに、汗がたまりやすい首やひじ、ひざの裏などに、あらかじめワセリンを塗っておくと、ワセリンが汗を弾き、かゆみ予防ができると考えられています。

●赤ちゃんの発症予防が期待できる
一般的に、アトピー性皮膚炎を発症しやすいのは、「生後3カ月前後」と「1歳半から3歳」だといわれています。近年の研究では、生後まもなくから約8カ月間に渡って、全身に保湿剤を塗るスキンケアを毎日続けることで、発症リスクを抑えられる可能性があることが分かってきました。そうした赤ちゃんの保湿ケアとして、ワセリンが選ばれることがあるようです。

また、アトピー性皮膚炎の赤ちゃんは食物アレルギーを併発することがあります。口周りのバリア機能が低下していると、そこに付着した食べ物のアレルゲンが侵入。それにより、食物アレルギーを発症してしまうのです。その予防として、口周りを清潔にした上で、ワセリンを薄く塗り保湿しておくという方法があります。

ワセリンは赤ちゃんにも使える

ワセリンでアトピーが悪化するという意見

ここまで、ワセリンがアトピー性皮膚炎の改善や予防に効果的だという考え方をお伝えしました。その一方で、アトピー性皮膚炎の肌にワセリンを使用しない方がよいという見解もあります。

●皮膚表面に熱がこもる原因に
ワセリンを塗ると皮膚表面に油膜が作られますが、これは肌の水分蒸発を防ぐ一方で、汗の蒸発も妨げる可能性があると考えらえています。それにより熱がこもると、かゆみが増してしまうことから、使用を控えた方がよいといわれることがあるようです。特に乳幼児は、体温調節機能が未熟で肌内部に熱がこもりやすいため、ワセリンの使用を控える医療機関もあります。

●細菌感染を悪化させる
アトピー性皮膚炎の場合、皮膚のバリア機能や免疫力が低下しているため、細菌による感染症を併発することがあります。肌への密着度が高いワセリンで湿疹や掻き傷を覆ってしまうと、その内部で細菌が増殖してしまう恐れがあるようです。

●保湿剤依存症になる可能性
ワセリンによる保湿を長期間続けていると、皮脂腺や汗腺の機能が低下してしまい、皮膚が自ら潤う働きが弱ってしまう可能性があるようです。その結果、保湿剤が手放せない状態になってしまうと考えられています。また、皮膚にワセリンが蓄積されることで、毛穴が詰まったり、正常な新陳代謝が妨げられたりするという見解もあります。

●肌内部が水分不足になる可能性
ワセリンには、肌内部に浸透したり水分をプラスしたりする働きはありません。それを誤って認識し、ワセリンを塗るだけのスキンケアを続けていると、一見、肌表面は乾燥していないように見えても、内部で乾燥が進んでしまう可能性があります。そのため、使用をオススメしない場合もあるようです。

まとめ

乾燥から皮膚を守り、バリア機能を高めるために、毎日の保湿ケアが大切なアトピー性皮膚炎。その治療法は、症状を引き起こすアレルギー物質や症状の度合い、年齢によっても異なり、ワセリンの使用の是非についても賛否両論あります。今回ご紹介した意見を参考にしながら、かかりつけ医とよく相談し、適切な対策を見つけましょう。

中島医師よりコメント

アトピー性皮膚炎は皮膚が乾燥しバリア機能が弱く、汗やホコリなどで過敏に反応してしまいます。アトピー性皮膚炎は症状に応じて薬剤も変わってきますので、医療機関に相談して用法用量を守って使用しましょう。

医師・中島由美
監修者
医師・中島由美

金沢医科大学医学部を卒業後、大学病院で小児科、市中病院で内科医として勤務。皮膚科、美容皮膚科でも研鑽を積み、2018年クリスタル医科歯科クリニックにて内科、アレルギー科、美容皮膚科を開設。内科院長として勤務。

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