小児の急性重症呼吸器疾患1)
2014年8月19日、CDCはミズーリ州カンザス市の小児病院から、重症呼吸器疾患で検査および入院する患者(小児集中治療室に入院が必要な患者も含む)が毎年同時期に比較して増加しているとの連絡を受けた。8月5~19日に得られた鼻咽頭検体のマルチプレックスPCR[註1]によってライノウイルス/エンテロウイルスの検出が増加してることも気づかれていた。
8月23日、イリノイ州のシカゴ大学小児病院からもカンザス市に似た患者の増加の連絡が入った。これらの地理的に異なる2か所の状況をさらに解析するために、最近発症した両施設の殆どの重症患者の鼻咽頭の検体について、CDCのピコルナウイルス研究所が遺伝子配列を検査した。その結果、エンテロウイルスD68(EV-D68)[註2]がカンザス市の22検体中19検体から、シカゴの14検体中の11検体から同定された。これらの初期報告以降、重症呼吸器疾患での入院が毎年の同時期よりも多いことが両施設で続いた。他の管轄区での集団感染疑いについての調査も継続している。
カンザス1)
EV-D68が同定されたカンザス市の19人のうち、10人(53%)は男性であり、年齢は生後6週~16歳(中央値=4歳)であった。13人の患者(68%)は喘息もしくは喘鳴の既往歴があったが、6人(32%)には呼吸器基礎疾患はなかった。すべての患者は呼吸苦および低酸素となり、4人(21%)は喘鳴を呈した。興味深いことに、僅か5人の患者(26%)が発熱したに過ぎなかった。すべての患者が小児集中治療室に入院し、4人がバイレベル気道陽圧呼吸[註3]を必要とした。胸部レントゲンでは肺門周囲浸潤影がみられ、無気肺が多かった。胸部レントゲンも血液培養も細菌の共感染の所見を呈しなかった。
シカゴ1)
EV-D68が確定したシカゴの11人の患者のうち、9人が女性であり、年齢は生後20ヶ月~15歳(中央値=5歳)であった。8人の患者(73%)に喘息もしくは喘鳴の既往があった。そして、僅か2人(18%)に発熱が見られたに過ぎなかった。10人が呼吸困難にて小児集中治療室に入院した。2人が人工呼吸器(そのうちの1人が膜型人工肺も行われた)を必要とし、2人がバイレベル気道陽圧呼吸を要した。
エンテロウイルスD681,2)
EV-D68は数多くある非ポリオエンテロウイルスのなかの1つである。このウイルスは感染者の気道分泌物(唾液、鼻粘液、喀痰など)にみられ、咳、くしゃみ、汚染環境表面への接触によってヒトからヒトに伝播する。夏および秋に感染することが多い。
EV-D68は様々な臨床症状を呈し、軽度の呼吸器疾患、発熱性発疹疾患、神経学的疾患(無菌性髄膜炎や脳炎)がみられる。一般に、幼児、小児、ティーンエージャはエンテロウイルスに感染しやすく、病気になりやすい。このウイルスに対する免疫がまだ獲得されていないからである。
EV-D68は1962年にカリフォルニア州にて最初に同定されて以降、米国では殆ど報告されていなかった。実際、全米エコーウイルスサーベイランスシステムは2009~2013年で79件のEV-D68の報告を受け取ったに過ぎない。しかし、2014年8月中旬~9月12日までで、米国の6州の97人において、EV-D68による呼吸器疾患が確定されている。
EV-D68にはワクチンも特別な治療法もなく、支持療法のみとなる。下記の対応によって呼吸器感染症から身を守ることができる。
- 流水と石鹸にて20秒間の手洗いを頻回におこなう。特に、オムツを交換したあとには手洗いをする。
- 手洗い前の手で目、鼻、口に触れることを避ける。
- 病気の人とキス、抱擁、コップや食器の共有を避ける。
- 病気の患者がいる場合には、玩具やドアノブのような手指の高頻度接触表面の消毒を頻回におこなう。
- 喘息の人は呼吸器疾患のハイリスクなので、この時期には薬剤を用いて喘息をコントロールする。また、喘息の人はインフルエンザワクチンを接種すべきである。
今後は、医療従事者は急性の説明のつかない重症呼吸器疾患の原因として、EV-D68を考慮すべきである。
文献
- CDC. Severe respiratory illness associated with Enterovirus D68 ̶ Missouri and Illinois, 2014
http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/wk/mm63e0908.pdf - CDC. Enterovirus D68
http://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/about/EV-D68.html
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長