消毒薬の選び方

消毒剤の毒性、副作用、中毒

9.クレゾール石ケン液(Saponated Cresol Solution)

毒性

(単位:mg/kg)

    o-クレゾール m-クレゾール p-クレゾール
    LD50 LC50 MLD LD50 LC50 MLD LD50 LC50 MLD
マウス 吸入   179mg/m3/
2時間
             
腹腔     200 168     25    
経口 344     600     160    
皮下     410     450     150
ラット 吸入   29mg/m3     58mg/m3     29mg/m3  
経口 1350     242     270    
皮下     65 300         500
          900      
皮膚 620     1000     750    
ウサギ 静脈     180     280     180
腹腔     180            
経口 940     1400     620    
    940     1400     620
皮下     450 2050         300
          500      
皮膚 890     620     301    
イヌ 静脈     80     150      
腹腔           100      
皮下                 200

慢性毒性

  1. 全身作用
    皮膚、粘膜又は気道から吸収されるクレゾールの濃度が低い場合でも、長時間吸収が続くと慢性中毒を起こすことがある。
  2. 局所作用
    低濃度のものでも、繰り返し又は長時間続けて接触すると、皮膚炎が起こる。皮膚障害のある所に繰り返してクレゾールが作用すると、その部分に広い壊疽を起こすことがある。

致死量

ヒト経口推定致死量(大人)
180~250mL

(クレゾール:ヒト経口推定致死量 1.5g/kg)

副作用

接触例

クレゾール石ケン液は腐蝕性が強く、損傷皮膚から吸収されて障害を起こす。
濃厚液が皮膚に付着すると、灼熱感、知覚麻痺、炎症を起こし、初め皮膚を白変させ、ついで紅斑を生じ、局所組織の壊死を起こす。

  1. 21歳、女性。クレゾール石ケン液を全身の約30%に浴びた。受傷約1日経過後に治療開始となったが体表面積約30%に深達度Ⅱsの化学熱傷と、その中毒症状である腎機能障害を既に呈していた。
  2. 7歳、男児。滑り台で遊んでいた男児が突然意識障害をきたして倒れ、近医に搬送された。臀部、左膝関節裏面、陰嚢に化学熱傷とクレゾール臭を認めたためクレゾール中毒と診断された。
  3. 38歳、男性。水虫治療のためゴム長靴にクレゾール石ケン液(原液)を入れて作業中、意識を消失し倒れた。第1病日に意識障害、痙攣、軽度肝機能障害。第2病日より腎機能障害、肺炎。第3病日に肺水種。第7病日に血圧低下、徐脈となり、第10病日に死亡した。
  4. 19歳、男性。主として両下肢(体表の約21%)にクレゾール石ケン液(原液)500mLを浴び、受傷後約10時間で来院。当初より非乏尿性腎不全像を呈した。さらに、肝障害(高トランスアミナーゼ血症)、溶血に基づくと考えられる高ビリルビン血症を伴った。
  5. 43歳、女性。床にまかれたクレゾールの上で何度も転倒し、頭部打撲後に意識障害をきたした。左前腕・左下肢・左臀部にⅡ度の化学熱傷と強い刺激臭、軽度の肝障害と黒褐色尿を認めた。第13病日の生検にて急性腎不全を認めた。

吸入例

新生児室の消毒に常用して、新生児に高ビリルビン血症を生じた。

注射例

24歳、女性。自殺目的にクレゾール石ケン液約6mLを静脈内注射。意識清明で頻呼吸と、左顔面と左上肢に化学熱傷を認めた。第3病日に急激な呼吸状態の悪化、重篤な肺障害を認めた。

誤飲例

  1. 77歳、女性。自殺目的にてクレゾールを服用。意識障害、呼吸困難、口腔粘膜の高度なびらん、3日後に剥離性食道炎を認めた。咽頭浮腫が強いため、第12病日に気管切開を行なった。
  2. 19歳、男性。自殺目的にてクレゾール石ケン液を服用し急性の中毒死に至った。肺はうっ血水腫著明で心臓内に暗赤色流動血をやや多量、気管支内にクレゾール臭顕著な褐色の流動液を少量認めた。消化管内容のクレゾール濃度は高く、クレゾール臭が著明であった。
  3. 58歳、女性。クレゾール石ケン液を服用し、気管支肺炎により死亡。肺はうっ血水腫状で気管及び気管支内には吐物の吸引がみられ、細気管支炎を認めた。消化管は粘膜変性を認め、消化管全般にクレゾール臭を認めた。
  4. 79歳、女性。自殺目的でクレゾール石ケン液約80mLを服用した。クレゾール臭著明で過呼吸、代謝性アシドーシス及び顔面、四肢に軽度のチアノーゼを認めた。また軽度の肺炎、腐蝕性食道炎を併発した。
  5. 19歳、女性。自殺目的でクレゾール石ケン液約120mLを服用した。来院時は昏睡状態で、低体温、頻脈、脱水、代謝性アシドーシス、呼気中にクレゾール臭、黒色尿、顔面化学熱傷及び肺水腫を認めた。またその後、播種性血管内凝固症候群、急性腎不全、肝障害、横紋筋融解症などを生じた。
  6. 65歳、女性。自殺目的でクレゾール石ケン液約70mLを服用した。来院時は呼吸停止状態で黒色尿、食道、胃粘膜に腐蝕性の病変を認めた。翌日より呼吸状態は回復したが、意識の回復とともに、口唇周囲に異常運動(ラビット症候群)が、また四肢にパーキンソン様の症状がみられた。
  7. 26歳、女性。クレゾール石ケン液約70mLを自殺目的で服用した。8時間後、顔面蒼白、傾眠傾向、呼気の異常臭に家人が気付き、当院救急部に搬送された。来院時、意識状態はほぼ清明、呼吸・循環動態は安定していたが、顔面蒼白、呼気のクレゾール臭、緑褐色尿を認めた。
  8. 60歳、女性。クレゾール石ケン液約60mLの服用により、口腔粘膜や舌の発赤、右口角には3×7cmの化学熱傷(2度)を認めた。
  9. 37歳、女性。10年来の精神分裂病で治療中であったが、クレゾール石ケン液100mL、ジアゼパム52錠(104mg)を服用。顔面蒼白、末梢冷感著明、呼気にクレゾール臭著明、下口唇から下顎にかけて化学熱傷を認め、口腔内、咽頭、喉頭に発赤、浮腫、びらん、水疱形成を認めた。黒色尿の排出、軽度の呼吸機能低下、代謝性アシドーシスを認めた。
  10. 46歳、男性。自殺目的にてクレゾール石ケン液約100mLを飲用。意識障害、頻脈、呼吸抑制、肺うっ血、血圧低下の所見を認めた。
  11. 39歳、女性。自殺目的にてクレゾール石ケン液を約270mL飲用し、約3時間後に意識消失。顔面、両肩、右上腕、右膝にかけて、皮膚面積約8%の化学熱傷と全身クレゾール臭を認めた。喘鳴が強く、口腔粘膜は発赤し、喉頭披裂部と声帯浮腫が著明であった。
  12. 77歳、女性。老人性痴呆症。クレゾール4倍希釈液を誤飲。咽頭蓋の発赤と浮腫、気管内の発赤を認めた。第3病日の上部消化管内視鏡で、剝離性食道炎を認めた。
  13. 35歳、女性。意識レベル低下、胃洗浄液の臭いよりクレゾール飲用と考えられ、尿に黒色の沈殿物を確認。第2病日に急性肝不全、急性腎不全、DICとなり多臓器不全を認めた。
  14. 86歳、男性。自殺目的にてクレゾール石ケン液約100~120mL服用。下顎~頸部の皮膚の茶色状の変色、口腔内びらん、胸部X線にて右上肺野に無気肺を認めた。第3病日より肝機能障害を生じた。
  15. 28歳、男性。自殺目的にてクレゾール100mL内服。昏睡状態にて発見され、重篤な急性肝不全、腎不全を認めた。

中毒症状

少量を経口した場合

  • 悪心、嘔気、嘔吐、下痢、口腔・食道・胃粘膜の腐蝕に伴う灼熱感と疼痛、咽頭・喉頭浮腫
  • 上気道の狭窄、粘膜白色変性
  • 頭痛、めまい

大量に経口した場合(16mL以上)

  • 吐血、食道潰瘍、下血、食道の瘢痕狭窄(中枢神経系に作用する)
  • 痙攣、筋線維性攣縮、腱反射消失、せん妄、興奮、不穏、瞳孔縮小、体温低下
  • 代謝性アシドーシス、メトヘモグロビン血症、貧血、溶血
  • 血圧低下、チアノーゼ、心筋炎、不整脈、頻脈、ショック、心停止
  • 呼吸麻痺、肺水腫、昏睡、意識障害
  • 肝障害、腎障害(急性尿細管壊死による)、乏尿、無尿

吸入の場合

全身中毒、粘膜刺激

皮膚・眼に付着した場合

  • 皮膚...............
    白色又は茶褐色の化学熱傷を認める
    灼熱感、紅斑、触感麻痺、浮腫、白色変性、びらん
    眼..................
    飛沫は腐蝕と眼球損傷

処置法

経口の場合

  1. 胃洗浄(腐蝕が進行している場合は穿孔を起こすため禁忌)
    1%炭酸水素ナトリウム液
  2. 希釈剤投与
    牛乳200~300mL又はオリブ油30mL
  3. 吸着剤投与
    薬用炭(40~60g → 水200mL)やヒマシ油投与
    <ヒマシ油はクレゾールを溶解させて吸収をおくらせる>
  4. 下剤投与
    硫酸マグネシウム(30g → 水200mL)又は、マグコロール®P(50g → 水200mL)
  5. 粘膜保護剤投与
    アルロイドG®、マルファ®液、アルサルミン®など
  6. 輸液投与
  7. 強制利尿
    フロセミド注を加える
  8. 呼吸管理(気道確保、酸素吸入、人工呼吸など)
  9. 対症療法
    痙攣.................................
    ジアゼパム注(セルシン®)、フェノバルビタール注(フェノバール®)など
    代謝性アシドーシス......
    炭酸水素ナトリウム注(メイロン®
    抗生物質を6時間ごとに投与
    ヒドロコルチゾン静注
  10. 重症の場合
    血液吸着(DHP)、血液透析(HD)を行う

※回復後もまれに食道狭窄が残ることがある

皮膚・粘膜に付着した場合

  1. 付着した衣服を脱がせ、汚染部を大量の水や50%エタノールで洗浄する
    また、オリブ油などをガーゼに浸し、清拭する
  2. 熱傷と同じ処置を行う
  3. 全身症状が出現した時は<経口の場合>の⑥~⑩の処置を行う

眼に付着した場合

水で洗浄